ヴァンラーレ八戸の“あの日” 土屋 雅史 2013年9月15日 土屋雅史 ヴァンラーレ八戸。東北社会人リーグ1部所属。 昇格初年度にもかかわらず、この地域の盟主とも言うべきグルージャ盛岡を抑えて 首位に立っている青森のクラブが、J1の首位を走る横浜F・マリノスとの“首位”対決に臨む、 その夢舞台は天皇杯2回戦です。 昨年、2部2位で臨んだ昇格決定戦に勝利し、 今年から東北社会人リーグ1部でプレーしているヴァンラーレ八戸。 聞きなれない“ヴァンラーレ”というチーム名は、 イタリア語の”南の郷”(Australe)と”起源”(Derivante)という 意味を組み合わせた造語とのこと。 来年からの設立が発表されているJ3への参加意思を持ち、 今年の6月には準加盟申請も行っている、 「青森からJリーグへ」という理念を明確に持ち合せているクラブが、 3回目の天皇杯本大会挑戦で初の1勝を挙げると、 その次に待ち受けていた相手は横浜F・マリノスでした。 クラブとしてもJリーグ勢との対戦は初めて。 平日ナイターにもかかわらず、アウェイゴール裏には選手とお揃いの 鮮やかな緑のレプリカを着た少なくないサポーターが。 サッカー専用スタジアムの中でも特に素晴らしい雰囲気を有している三ツ沢で、 クラブにとっても、そしてサポーターにとっても歴史的な一戦を迎えていることが 試合前の緊張感からひしひしと感じられました。 しかし、「アップでも硬くなっていた所はあるので、みんな緊張していた」 とキャプテンの新井山祥智が振り返ったチームは、序盤こそ相手に気圧された感じはあったものの、 少しずつ落ち着きを取り戻すと、19分には相手のミスを突いた小林定人が 素晴らしいシュートを横浜FMゴールに叩き込み、なんと先制点を奪ってしまいます。 とはいえ、そこはJ1の首位チーム。 「相手も本気になってくれたかなと思いましたけど、ちょっとレベルが上でした」 と新井山も話したように、先制点直後の21分にすぐさま同点に追い付かれると、 前半は何とか1-1で凌ぎましたが、後半は4ゴールを喫し、結果は5-1での敗戦。 ジャイアントキリング完遂とは行きませんでした。 それでも選手たちが「天皇杯は県の代表として戦っていると自分たちも強く思っているので、 そこは恥ずかしくない試合をやっていけるようにと話していた」(新井山)ように、 いわば現時点で日本の頂点に立っているチームに対して、 青森県代表の意地はしっかり披露してくれたと思います。 試合後はバックスタンドやメインスタンドのみならず、 横浜FMサポーターが陣取るアウェイゴール裏まで挨拶に出向き、 大きな拍手を贈られたヴァンラーレ八戸イレブン。 「チームしてはこういう舞台が初めてだったので、少なからずいい経験になったと思う」と新井山。 おそらくクラブ史の中でも間違いなく“あの日”として 語り継がれていくような、そんな三ツ沢の夜でした。 Tweet