以前であれば高校のサッカー部でプレーする3年生にとって
現役最後の公式戦は常に高校選手権大会であり、
日本一になるたった1つの高校を除いて、
すべてのチームが敗北の記憶を積み重ねていくものでした。
ただ、リーグ戦制度が整備された今、
最後の公式戦を勝利で終えるチームも
決して少なくありません。
例えば高校サッカー界における名門中の名門・帝京高校も
3年生を勝利で送り出せる可能性がありました。
11月27日、T1リーグ第17節。
既に3週間前の選手権東京予選準決勝で
強敵の駒澤大学高校を無失点に抑えながら、
最後はPK戦での敗退を余儀なくされた帝京。
関東大会予選、インターハイ予選、そしてこの選手権予選と
負けたゲームはいずれもスコアレスドローでのPK戦。
ある意味では最強の敗者とも言うべき今年の帝京にとって、
最後のゲームは延期されていたリーグ戦になりました。
今年度のチームにとっては正真正銘のラストマッチ。
チームの黄金期をコーチとして支えた荒谷守監督が
このゲームのスタメンとリザーブに選んだのはすべて3年生。
試合前にはこの日出場停止となり
スタンドでの観戦となったエースがピッチの選手から呼ばれ、
作られた円陣もスタンド側へ移動。
そのエースも交えた“最後の”円陣が解けると、
“最後の”90分間はキックオフを迎えます。
とにかく楽しそうでした。
3年生だけで構成されたピッチ上の選手たちも、
ベンチ入りは叶わずにスタンドで応援に回った3年生や下級生たちも、
とにかく楽しそうでした。
聞けば普段から厳格な指導に定評のある
荒谷監督がこの試合に向けて送った指示は「楽しめ!」というもの。
その監督も「彼の人間性は素晴らし過ぎる」と絶賛する武藤稜君も
「今までで一番楽しかった」と試合後に笑顔を見せてくれました。
結局、このゲームで積み重ねたのは大量5ゴール。
うまさと力強さを兼ね備えたこの日の彼らは
“カナリア軍団”の称号にふさわしい最高のゲームを披露し、
帝京高校でのラストゲームを勝利で飾ったのです。
名門がゆえに常勝を義務付けられ、
常に見えないプレッシャーと戦ってきた3年間。
最後の最後でサッカーを楽しみ、
笑顔でラストマッチ締め括ることができた彼らに
大きな拍手を送りたいと思います。
写真はカナリア軍団のラストマッチが行われた駒沢第2です。