一触即発 ホルヘ三村 2015年9月18日 アルゼンチン, ホルヘ・ミム〜ラ アルゼンチンリーグの前節はクラシコデーだった。 インデペンディエンテ対ラシン、エストゥディアンテス対ヒムナシア、 ロサリオ・セントラル対ニューウェルスなど各地のクラシコが一斉に行われた。 もちろん、リーベル対ボカのスーペルクラシコもこの中のひとつ。 ボカはこの試合に勝てば単独首位となる。 チームを引っ張るのは、7月から復帰したテベス。 未だバリバリの現役代表選手だけに、そのパフォーマンスはリーグでも群を抜いている。 日本でガンバを下してから不振のリーベルは、 ホームでボカを破って優勝争いに踏みとどまりたいところ。 開始4分でボカは代表のガゴが負傷退場。 替わりに入ったのは、ウルグアイ代表のロデイロ。 そして彼の決勝ゴールにより、ボカが1-0で勝利を飾った。 いつものように路線バスで帰って来ると、面白いというか、 なんか物騒だなと思うことがあった。 バスの中にはスタジアム帰りのリーベルサポーターが10人ほどいた。 バスがホルヘの家の近くで信号待ちをしていると、 「ガジーナ!(リーベルの蔑称)」という声が突然聞こえた。 声がした方を見ると、隣の自動車の運転席から男が身を乗り出し、 左手の親指と人差し指で輪を作り、そこに右手の指を突っ込んで、 「ファック」のゼスチャーをこちらに向けてやっている。 ユニホームを着ているリーベルのサポーターを車内に見つけ、 ボカサポーターがからかってきたのだ。 これは、よくあることで珍しくもない。 バス内のリーベルサポーターは2~3人ずつの4グループで、 それまではグループ同士のつながりは全くなかった。 しかし、これを機に一致団結。「ふざけやがって、あの野郎」みたいな言葉が交わされるようになった。 とはいえ、彼らもこの挑発を楽しんでいるようで、皆の顔には笑顔があった。 件の自動車が先行し、バスがその50メートルほど後方を走る。 バスが赤信号で止まったとき、誰かが運転手に、「追いついて、ぶつけてくれ」といった。 この冗談に一同笑ったが、なんと運転手は信号無視をして発進。 彼もまたリーベルファンだったのだろう。 しかし一度停車したことで差は開き、目的の自動車は見えなくなっていた。 誰もが本気でぶつけるつもりはなかったので、 「見失ったか。まあ、しょうがない」といった空気になった。 ところが、ホルヘが降りるバス停の150メートル手前に建っている マンションの車寄せに、あの自動車が停まっていた。 バスはその前を知らずに通過したが、車内の何人かが、「あんなとこにいた」と発見したのだ。 ホルヘが降りる準備をしてブザーを押すのと、リーベルサポーターたちが、 「あそこに戻って、懲らしめてやろうぜ」と騒いだのはほぼ同時だった。 すると、バスは停留所のはるか手前で止まり、降車ドアを開けた。 バスの運転手が、サポーターに同調したのだ。 バスから降りたリーベルサポーターは、わめきながらマンションへ向かう。 どうなるかと興味津々で見ていると、彼らの接近を察したボカサポーターは、 自動車を急発進させて辛くも逃げきった。 もし捕まっていたらリンチされていただろうし、 逃げる際に相手を轢き殺す危険もあった。 とにかく、無事に済んだのは幸運といえる。 ボカサポーターのからかいから始まったものがリーベルサポーターの集団心理を産み、 彼らの冗談に運転手が乗ったことでリーベルサポーターは抑えがきかなくなった。 アルゼンチンではサポーター同士の殺傷事件が多発しているが、 その多くは、このように些細なことから発展したものではないだろうか。 台風発生のメカニズムを知るがごとく、 間近でトラブルの誕生から発達までを見ることができ、貴重な体験だった。 Tweet