パラグアイは汚職や収賄の多い国だ。
こうした問題は、日本では政治家や官庁絡みが一般的ながら、パラグアイでは庶民にも身近なものとなっている。
 
 
ブラジルと接するシウダ・デル・エステと首都アスンシオンをつなぐ国道では頻繁に検問が行われる。
主にブラジルからの密輸品摘発が目的で、入念に車内を調べられる。
趣味で釣りに行った人が大漁で帰ってくると、「規定量以上獲った」といちゃもんをつけられるなど、何かとうるさい検問だ。
 
 
やましいところがなければ堂々としていればいいが、エステでたくさん電化製品を買ったりして引っかかる不安のある人は、「急いでるから、頼むよ」といってサッとお金をつかませる。
取り締まり強化中とか他の犯罪容疑で疑われなければ、たいていはこれでパスできる。
この検問の係を1年やれば、立派な家が建つといわれているそうだ。
 
 
スピード違反で警官に止められた時も、「コーヒーでもどう?」で無罪放免になることが多い。
警官が「飲みたいね」と答えたら、コーヒー代程度を渡す。
「コーヒーより飯が食いたい」と答えたら、食事代位を渡すのだ。
警官にすれば、相手が払えないような高額を要求しても意味ないし、訴えられたらヤブヘビとなる。
一般の人は警察の給料が安いことを知っているので、お茶代や食事代をカンパする感覚で支払う。
それで反則金が助かるのなら安いものだ。
 
 
役所での申請や手続きでも、お金を掴ませればスムーズに進む。
知り合いの日本人がある申請を役所でしたときのこと。
数日後に役所へ行くも、「あなたの書類はまだここだ」と書類の山の下の方を示された。
また日を改めて行くと、「今はここだ」と真ん中付近を指さした。
そして、「おれにお金をくれれば、その瞬間にあなたの書類は一番上になる」といわれたそうだ。
きっと、「この日本人は賄賂の習慣を知らないのだな」と思い、親切心で教えてくれたのだろう。
急がなければゆっくり待てばいいし、時間がないならお金で急がせる。
実に合理的だ。
賄賂というと普通は悪いイメージだが、底辺まで浸透した場合、それはある意味で社会の潤滑油になっている。
いい仕事をしてもらう、あるいは急いで仕事をしてもらうためのチップ先払い制度とも考えられる。
 

 
 
イギリスのある機関が、世界汚職ランキングなるものを発表している。
2000年前後、パラグアイはここでワースト3の常連だった。
そして、1位の座をしばしば争った好敵手(?)がナイジェリア。
このナイジェリアのサッカーリーグで、先ごろギネス級のスコアが生まれた。
 
 
4部リーグ最終節、プラトー・ユナイテッドとポリス・マシーンFCの2チームが昇格に王手。
しかし、昇格できるのは1チームのみ。
両者は同勝ち点で、得失点差の争いをしていた。
ここは、1点でも多く取って勝ちたいところだ。
 
 
そして結果はというと、ポリス・マシーンが67-0の爆勝。
これで昇格間違いなしと思いきや、プラトー・ユナイテッドは79-0というスコアを叩きだした。
68秒に1得点という荒稼ぎ。
もちろんこんなことは、相手チームを買収しなければありえない。
67得点を挙げたのはポリス・マシーンというのだから、警察関係のチームであろう。
しかし、やっちゃうのだ。ナイジェリアだから。
 
 
ところがこれはさすがに問題となり、買収された相手を含む当該4チームはサッカー協会から処分され、昇格はならなかった。
かつてはしばしば汚職ワースト1に輝いたナイジェリアも、2018年のランキングでは180ヶ国中36位と多少なりとも健全化している。
おそらく全盛時だったら、今回の買収合戦もお咎めはなかっただろう。
 
 
79-0(68秒に1得点)というのは、いかに相手が無抵抗であれ物理的に限界のように思える。
失点した相手は中央へボールを戻してキックオフをするので、そこで時間がある程度かかってしまうからだ。
 
 
しかし上には上があるもので、1994年にマダガスカルで149-0という試合があったそうだ。
もっとも、これはすべてオウンゴール。
前節の判定に抗議するため、自陣ゴールへ次々とシュートを放ったのだ。
当時はまだキックオフは前方へしか蹴れなかったので、キックオフを受けた選手がゴール前へ送り、それをDFがシュート。
そしてゴールインしたボールをGKがパントキックで中央へ渡すということを繰り返したのだろう。
この90分間に、相手チームの選手はどうしていたのか、それが知りたいものだ。
 
 
ナイジェリアのスキャンダルが昇格絡みだったので、ちょっと珍しいメキシコリーグの昇格ルールも紹介しておこう。
メキシコも日本同様、昇格するためには成績だけでなくJ1資格のような基準がある。
もし基準に満たないクラブが2部で優勝しても1部へは上がれない。
代わりにそれに準ずる成績の有資格クラブが昇格するのが普通だが、1部最下位のクラブがお金を払えば、降格を免れるのだ。
これは賄賂でなく協会のルールで、金額は600万ドル。
かなり高額だが、降格したら大幅減収間違いなし。
払った方が得という計算になる。
この一部は協会へ入り、残りの大部分は2部優勝クラブへ支払われる。
経済的問題で資格を得られないクラブは、この資金でスタジアムの改修やユース組織の充実を図り基準クリアを目指すのだ。
無資格のクラブの選手とサポーターは、「連覇すれば昇格できる」という夢を持つことができるので、なかなか面白いシステムだと思う。


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ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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