アンデス大隧道 ホルヘ三村 2013年2月8日 ホルヘ・ミム〜ラ 前回書いたアンデスツアーでは、雄大な山の景色を堪能する以外にも、 アルゼンチンとチリ間の物流について興味深いことを聞いた。 太平洋に面し南北に細長いチリは平地が少なく、アルゼンチンは広大な国土をもつ農業・牧畜国。 お互いの過不足を補うためには、貿易を行えばいい。 しかしその前に立ちふさがるのが、巨大なアンデス山脈だ。 19世紀後半、この問題を解消するためにアンデス横断鉄道が生まれた。 しかし悪環境の下で保線に莫大な費用が掛かることと、自動車道路の整備により86年に廃業された。 国道沿いには今でも線路が走り、鉄橋や駅舎も当時のまま残っている。 鉄道は過去の遺物となり、現在はトラックが物流のすべてを担うことになった。 大型トラックやトレーラーが、ウネウネと峠道を昇り降りしている。 余談だが、こうやって運搬するとワインの味が変わるという。 カーブで何度も揺られることが悪影響を与えるそうだ。 これを現地の人は、「ワインが酔う」と表現する。 トラック輸送はワインを酔わせるばかりでなく、冬季はしばしば機能しなくなる。 雪で通行不能になることが、45~60日もあるのだ。 物流に対する現在の社会ニーズはスピードと正確性だが、これでは全くそれに応えられない。 そこで、ついにアンデス山脈にトンネルを造ろうという計画が持ち上がった。 裾野から裾野というわけではなく、ある程度登ったところからだが、 全長52キロメートルのトンネルを掘って両国を結ぶのだという。 中を走るのは一般道ではなく鉄道レール。 それぞれの国のベースからベースまで、4時間で結ばれるようになるそうだ。 南米の中で、経済的に最も元気なのはブラジルだ。 アジア諸国やオーストラリア、アメリカ西海岸など環太平洋諸国からブラジルへの海上輸送は、 パナマ運河や南米最南端のホーン岬を回って行かねばならない。 しかしこのトンネルが開通すれば、ブラジルとの貿易もチリからできるようになり、物流革命となるらしい。 しかし、チリからブラジルへ輸送はアルゼンチンを通過しなければならないので、そこがどうも信用できない。 労働組合が強いこの国では、年がら年中デモが行われている。 したがって普通のデモは珍しくもなんともなく、それゆえ効果も上がらない。 そこで組合は、他人に迷惑をかけることで注目を集め、要求を認めさせようとする。 その常套手段が道路封鎖だ。 アンデストンネルからブラジルへ通じる道は、彼らにとって最高のターゲットとなるだろう。 Tweet