先日ニュースを見ていたら、「明日の午前11時より、タクシー運転手により下記の25か所が封鎖されます」と伝えられ、その25か所がテロップとアナウンスで流された。いずれも幹線道路が交差する、ブエノスアイレス市の重要ポイントだ。

アルゼンチンでは、「ピケ」と呼ばれる道路封鎖が頻繁に行われている。政府に対する抗議や要求の場合だけでなく、労働争議や給与の未払いといった、一企業とそこの労働者間の、いうなればプライベートな問題であってもピケを張る。

道路を封鎖すれば大勢の人が迷惑する。そして大勢が迷惑すれば注目が集まる。注目を集めることで、プライベートなものを社会問題に格上げさせて、要求を勝ち取ろうというのだ。

したがって、封鎖する場所は影響の大きいところが選ばれる。市内と郊外をつなぐ橋や高速道路、さらには国際空港へ向かう道まで対象となる。空港まで3キロメートルの地点が封鎖され、旅行者は思いスーツケースをゴロゴロ引っ張りながら歩かねばならない。何の関係もない外国からの旅行者が被害を受ける。これは事件としてニュースで取り上げられるので、まさに狙い通りということになる。

タクシー運転手は、いつもピケで迷惑をこうむっている人たちだ。事前に告知せず突然はじまるピケもあり、それで渋滞にはまったら商売にならない。ピケに対しては、相当な憎悪を抱いているはずだ。それなのに、なぜ大規模な道路封鎖をするのだろう。

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ニュースでは、「UBER(ウベル)に対する抗議」といっている。政府機関や組合、団体は頭文字で略されることが一般的なので、UBERというのも何かの組織だと思っていた。そこでネットで調べると、スマホで自動車が呼べるウーバーのことだった。ウーバーというのは聞いたことがあったものの、スペイン語でウベルといっていたのでピンと来なかった。

ウーバーはスマホのアプリで配車を依頼する、営業車の新しいシステム。アメリカなどでは、個人が自家用車で営業することもあるとか。これがアルゼンチンに参入しようとしているのだ。

「ブエノスアイレスに多すぎるものは、売店とタクシー」だといわれている。市内には、本当にタクシーが多い。日本のように2キロメートルまでが基本料金というのではなく、はじめから200メートルごとに料金が上がる。したがってチョイ乗りは当たり前で、運転手も嫌な顔はしない。それでも、同業者が多いので売り上げを伸ばすのは大変だ。

さらに、レミスというライバルがいる。これはハイヤーのようなものだが、ハイヤーのような高級感はない。普通の車で、普通の服装をした運転手が乗客を乗せるもの。料金はタクシーとほぼ同じ。利用の仕方によっては、タクシーよりお得になる。

このうえウーバーが入ってきたら死活問題ということで、やむなくピケを行ったのだろう。しかし路線バスが通れるように1車線は封鎖しないなど、なかなかスマートなピケだった。


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ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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