ドイツに敗れはしたが、24年ぶりに決勝に進出し、ライバルのブラジルが大敗した相手に接戦を演じたので、
 
試合後の国民には落胆より満足感が多かった。
 
そしてその思いを分かち合おうと、また続々とオベリスコに集まった。
 
 
 
ところがそこで暴動が発生し、約150人が逮捕され約70人の負傷者が出ることになった。
 
ホルヘはこの騒ぎをテレビで観ていたが、これが実に面白かった。
 
オベリスコは何かあれば人が集まる場所なので、周辺には何台ものテレビカメラが取り付けられてある。
 
それによって暴動の一部始終がリアルタイムで放映されたのだ。
 
スタジオのアナウンサーと現場レポーターのやりとりもあり、興味津々で見入ってしまった。
 
 
 
「喧嘩がはじまりました。片方に加勢が加わり、一人の男性が袋叩きになっています」とアナウンサーいうと、
 
「喧嘩は私のすぐ近くで起こっています。現場の3~4メートルには機動隊が整列していますが、
 
誰も止めに入りません」とレポーターが伝え、「警察、介入せず」というテロップが流れる。
 
 
 
営業を終えていたレストランはガラスのドアを破壊され、そこから入った暴徒たちが酒類を持ち出している。
 
「あ、また別の人間が入りました。このあたりに警察は全くいません」と現場の声が届く。
 
 
 
やがて警察も陣容を整え、隊列を組んで前進を始めた。
 
それに向かって暴徒は瓶や石を投げつける。
 
敷石をはがして砕いているシーンまで映っている。
 
はるか昔、日本の全学連も歩道の石をはがして投石に使っていたことを思い出した。
 
 
 
騒ぎはおよそ3時間続いたが、警察によるとこれは突発的なものではなく、
 
インデペンディエンテとチャカリータのバラスブラバス(ウルトラス)が扇動したのだという。
 
インデの新会長モジャーノとチャカの元会長バリオヌエボは労働組合の大物で、政治的にも影響力の強い人物。
 
子飼いのバラスを使って騒ぎを起こし、政権を揺さぶろうとしたと考えられる。
 
 
 
翌日の午前、ホルヘがオベリスコへ行くと、略奪が行われたレストランは、
 
ドアや窓は壊れたままながら営業をしていた。
 
店のテレビで昨夜の映像を再生して客寄せするというたくましさだった。
 
 
 
何軒もの商店がガラスを割られ、公共の表示板や信号は破壊され、ゴミ箱は燃やされていた。
 
とにかく、壊せるものはすべて壊したという感じだ。
 
それらの撤去と修理が行われる中、沿道には特設ステージが設置されていた。
 
夕刻、ここに代表チームが来るのだという。
 
 
 
代表は昼頃帰国し、空港から約3キロメートルの合宿所まで、高速道を埋め尽くした大勢の出迎えを受けて移動。
 
合宿所には大統領のクリスティーナがおり、まずは準優勝の功績を讃えると、
 
その後はまるで司会者のように振る舞って選手に次々とマイクを渡してしゃべらせていた。
 
 
 
デフォルト危機や副大統領のスキャンダルで苦しい立場の大統領にとって、
 
代表の活躍は国民の関心を政治から遠ざけるのに最高のものだった。
 
それへの感謝と、今後も代表人気を利用したいという思いが、派手なパフォーマンスとなったようだ。
 
 
 
オベリスコには代表を待つ大勢の人が集まってきたが、前夜のことがあったため、
 
「選手の安全が保障できない」として急きょ中止となった。
 
この決定に憤慨したサポーターもいたものの、連日の暴動は起こらずにすんだ。
 
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About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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