オレンジ軍団のリスタート。『スタジアムの“外”に感じた本気』 土屋 雅史 2016年3月16日 土屋雅史, 日本サッカー 正直、ここまでとは想像もしていませんでした。 道路の両脇が埋め尽くされているのはもちろんのこと、 小高くなっている丘の上にも多数のオレンジを纏ったサポーターの姿が。 近くにいた方に聞いてみました。「これってよくあることなんですか?」と。 その方は 「大事な試合の時はこうなりますね。 去年の残留が懸かっていた頃なんかは特に。 この時間はスタジアムの中より、こっちの方に人がいますよ(笑)」 とニッコリ笑顔。 2016年2月28日。J2の開幕戦。 場所はIAIスタジアム日本平の“外”。 選手たちのバス入りを待つ“外”はとんでもない熱気で溢れ返っていたのです。 1993年にスタートしたJリーグにおいて、創設当初のメンバーに名を連ねていた『オリジナル10』の中で、 昨シーズンの開幕時で一度もJ2を経験していないチームは全部で4つ。 鹿島アントラーズ。横浜F・マリノス。名古屋グランパス。そして清水エスパルス。 浦和レッズも、ガンバ大阪も、サンフレッチェ広島も這い上がってきたJ2を知らないということが、 彼らの大きなプライドであることは想像に難くありません。 ただ、一昨シーズンも最終節でようやく残留を手繰り寄せた清水は、 昨シーズンも開幕から低空飛行が続き、大榎克己監督は退任へ。 後を継いだ田坂和昭監督もチームを立て直すことはできず、 クラブ史上初めてのJ2降格という現実を突き付けられることになりました。 迎えた2016年シーズン。 過去に大分トリニータ、モンテディオ山形、徳島ヴォルティスと異なる3つのクラブに 『初のJ1昇格』という歓喜をもたらし、昇格請負人としても知られる小林伸二監督を新指揮官として招聘し、 1年でのJ1復帰は義務付けられていると言っても良い清水にとって、あらゆる意味でリスタートの開幕戦。 その一戦に臨むオレンジの友を勇気付けようと、 サポーターはバスに乗ってスタジアムに入ってくる選手とスタッフを出迎えるべく、 おなじみのサンバのリズムに乗りながら、旗を振り、飛び跳ね、歌を歌って、彼らの到着を待っていたのです。 バスのエンジン音が聞こえるやいなや、ざわざわとした空気は一転。 統率の取れたチャントがスタートします。 「清水エスパルス!!」。 スタジアムの“外”で幾重にもこだまするオレンジの声。 試合後、下部組織出身のストライカーであり、プロ2年目で開幕スタメンを勝ち取った北川航也は 「こうやってたくさんのサポーターの方が来てくれて、本当に良い雰囲気を創ってくれたので、 バスでスタジアムに入った時は本当に嬉しかったです」 とサポーターへの感謝を口にしていました。 ゲームは昨シーズンの昇格プレーオフも経験した難敵の愛媛を崩し切れず、スコアレスドローという結果に。 勝ち点3での船出とは行きませんでしたが、守備の崩壊が降格を招いた最大の要因であったことを考えれば、 ディビジョンが違うとは言っても無失点は十分な結果。 小林監督も 「守備はしっかり安定はしていたので、点は取れなかったですけど最低限の守備はキチッとできたと思うので、 去年を考えての今年の開幕ということでいくと悪くはないと思うんですよね」 と一定の手応えを掴んだ様子でした。 東京に帰る新幹線の中で、ふと思いました。 「あのバス待ちの時にお話を聞かせて下さった方は、どんな想いで日本平を後にしたんだろうなあ」と。 そして、「きっとまた来たるべき時が来たら、 あの方はスタジアムの外で選手の入ってくるバスにオレンジの声援を送るんだろうなあ」と。 あのサポーターの方にスタジアムの“外”で会えそうなタイミングを見計らって、 また日本平へ行ってみたいと考えています。 Tweet