全国高校サッカー選手権大会、通称“センシュケン”。
以前は国立競技場を、今は埼玉スタジアム2002を目指して全国の4000校を超える高校がしのぎを削るこの大会。
華やかにテレビで放送されることも相まって、当然冬の風物詩というイメージがあると思いますが、とりわけ東京でサッカーに日々の生活を捧げている高校生にとっては冬まで、むしろ秋まで“センシュケン”を体験できることの方が稀なこと。
大半のティーンエイジャーたちは蝉の鳴く真夏に、高校サッカーへ別れを告げることになるんです。
300校以上がエントリーする“センシュケン”の東京予選。
その内、290校が参加する1次予選が開幕したのは8月14日。
前述したように、まだどの会場でも蝉が激しく鳴き続ける中で、3年生たちは高校サッカー最後の大会へと臨みます。
これは東京では例年のこと。
冬の“センシュケン”はおそらく「見る」ものというイメージで、実際に「やる」方の“センシュケン”は、間違いなく真夏のイメージなんだと思います。
個人的にその事実に気付いた4年前から、毎年真夏の“センシュケン”に足を運び続けており、昨年は3年間で一度も公式戦に勝ったことのないチーム同士の試合へ赴き、PK戦で勝ったチームの主役となったGKに話を聞いたら、「実は僕、バスケ部なんです!」という衝撃の事実を知らされるなんてこともありましたが(笑)、おそらくは想像も付かないようなトピックスに溢れているであろう、この真夏の“センシュケン”を僕は毎年楽しみにしています。
色々なチームと色々な対戦を調べていく中で、今年のターゲットに選んだのは、2007年の学校開学以来、一度も公式戦に勝ったことがないというサッカー部。
しかも、今年度の新人戦はPK戦で、インターハイ予選は0-1で、共に初戦敗退ではあったものの惜敗と言っていい試合を繰り広げていたようで、「これはひょっとして“公式戦初勝利”が見られるんじゃないか」という期待を胸に、ある真夏のグラウンドへと向かいました。
「え?これで今まで勝ったことがなかったの?」というのが率直な印象。
だって、開始5分で2ゴールを奪った上に、次の得点もそのチーム。
1点を返されて少し嫌な空気も流れましたが、何と10番の子が自身のハットトリックとなるチーム4点目を決めると、前半終了間際にはその10番は30メートル近いミドルシュートまでぶち込み、ハーフタイムまでに5-1と大量リード。
後半も着々と得点を重ね、終わってみれば9-2という大勝で、堂々たる“公式戦初勝利”を手にしてみせたのです。
少し点差が付き過ぎたこともあって、喜び爆発という雰囲気ではありませんでしたが、「3年間で1回は絶対勝ちたかったので、勝てて良かったです」と笑ったのは、結局5ゴールをマークして、勝利に大きく貢献した10番。
チームをまとめてきたキャプテンも「正直こんな差で勝てるとは思わなかったです(笑)」と苦笑いしながら、「入部した時に『勝ってやろう』と思いましたし、めげずに練習してきたんで、勝てなくても心が折れたことはないです」ときっぱり。
彼らにとっては高校生活最後となる夏休みに、一生記憶に残るであろう“公式戦初勝利”という想い出が刻まれた訳であり、それに立ち会えたことが僕にとっても、この夏の1つの思い出になったのは間違いありません。
どうしても“センシュケン”というと、全国の晴れ舞台がフィーチャーされますし、それが当然だとも思いますが、彼らが蝉の鳴くグラウンドを必死に走り回っていたあの試合も、紛れもない“センシュケン”であり、それは埼玉スタジアム2002で日本一を懸けて行われる、5か月後のファイナルと同じ大会なんですよね。
公式戦に勝ったという、“センシュケン”に勝ったという事実が、彼らのこれからの人生に大きな自信をもたらしてくれたなら嬉しいなあと、そんなことを思いながら、この文章を書いています。