「メッシのいないW杯は、ケーキのないバースデーだ。そして、ケーキのないバースデーはある」。
これはグァテマラがFIFAから制裁処分を受けたときに、CONMEBOL(南米サッカー連盟)の弁護士が口にした言葉。
グァテマラに続きアルゼンチンにも処分が下され、W杯への道が閉ざされることを示唆したものだ。
アルゼンチンが所属するCONMEBOLとグァテマラが所属するCONCACAF(北中米カリブサッカー連盟)は、アベランジェとブラッターがFIFA会長時代にはガチガチの主流派で、昨年発覚したFIFAスキャンダルでの逮捕者の多くはこの両連盟の関係者だった。
アルゼンチンのグロンドーナはすでに死亡していたが、生きていれば主犯格で逮捕されていた。
グァテマラ協会の前会長ヒメネスも、放映権に絡む汚職行為によりアメリカで告訴されている。
FIFAの新会長インファンティーノは、これら旧主流派の残党を容赦なく粛清している。
グァテマラもアルゼンチンもFIFAから任命された正常化委員会が協会に取って代わった。
そんな中グァテマラでは、ドーピング違反により正常化委員会から4年間の出場停止処分を受けた4選手が、スポーツ自治連盟なるスポーツ界では国内で最も権威のある団体に、「我々に処分を下した正常化委員会こそ違法な団体である」と提訴。
そして、自治連盟はこれを認めた。
すでにサッカー協会があるのに、FIFAの圧力でその機能を奪うのは許されないとして、正常化委員会を活動停止処分としたのだ。
自治連盟は国内の各種競技団体による連合組織なので、FIFAを黒船扱いして攘夷論で結束した。
しかしFIFAの規約では政府や第三者の介入はご法度。
自治連盟の裁定は第三者の介入に当たる。
そのため、すでにフットサルW杯とU-20予選への参加禁止という制裁を与えていた。
しかし改善されないとして、新たに来年1月のCONCACAFカップへの出場停止と、U-17、U-20代表への1年間の公式試合出場停止となった。
アルゼンチンでは正常化委員会に対する問題はないが、委員長のペレスも手に負えないほどさまざまな問題が表れている。
グロンドーナおよび前会長セグーラ時代の不正な支出が検察により訴えられ、脱税で国税局から訴えられ、資金不足でクラブに割り当て金が払えず2部リーグがストになり、リーベルの降格がかかった2011年のプレーオフで、グロンドーナと当時のクリスティーナ大統領から「リーベルを落とすな」と圧力を受けたと主審が暴露。
さらに現政府は、来年から「フットボール パラ トドス」(税金で放映権を払って公営テレビで放映するシステム)は行わないと宣言。
もう、めちゃくちゃなのだ。FIFAが本気で粛清する気なら、検察と国税局の告訴および大統領の圧力を政府筋の介入として制裁を加えることができる。
数か月の資格停止処分にでもなれば、W杯への道は閉ざされる。
「まさかそんなことは起こらない」という楽観論も強いが、予断を許さない。
そんな中、ショッキングなニュースが11月1日に飛び込んできた。
アルゼンチン代表は、W杯南米予選前節終了時で5位と不振。
しかし5位ならプレーオフに出場できる。
ところがFIFAは前節と前々節のボリビア代表に違反があったとして、対戦相手だったチリとペルーの勝ちゲームと裁定を下した。
ボリビアと引き分けて勝ち点14で6位だったチリは、これにより勝ち点16でアルゼンチンと並び、総得点で上回り5位に昇格。
現時点でアルゼンチンは圏外となってしまった。
ちなみにボリビアの違反とは、パラグアイ出身で母国の代表経験を持つカブレラを起用したこと。
彼はボリビア国籍を取得しているが、同国内に5年以上居住しなければならないという条件をクリアしていなかった。
実はカブレラは、今年6月にアメリカで開催されたコパ・アメリカ100年大会にも出場している。
そのときはセーフで今回はアウト。
FIFAによるアルゼンチン叩きと思うのは勘ぐり過ぎか。
しかし、「グロンドーナがいれば、こんなことにはならなかった」(ボカ会長のアンヘリッチ)であることは間違いない。
次節はアウェイのブラジル戦なので敗れる可能性が高い。
すると、パラグアイの結果次第では7位に転落。ケーキのないバースデーが実現してしまうかもしれない。