この1か月弱、アルゼンチンサッカー界はまさに激動という感じだった。
まず、3月23日のW杯予選のチリ戦。
メッシのPKで難敵を1-0で下したが、功労者のメッシが試合中と試合後に副審へ向かって何かをいった。
ブラジル人審判団は、「試合中のものは聞こえなかった」、試合後のものについては、「(スペイン語なので)理解できなかった」と語っている。
 
 
しかしFIFAは、テレビ映像の口の動きから、侮辱的な言葉を吐いたと決めつけ、4試合の出場停止処分を科した。
しかも処分を発表したのが、28日に行われたボリビア戦の当日。
もちろん、メッシはこの試合にも先発予定だった。
標高3600メートルのラパスという悪条件に加え、中心選手が突然不在となったことでチームは動揺し0-2の完敗。
これでアルゼンチンはプレーオフ回りの5位となった。
 
 
残りは4試合で、そのうち3試合にメッシは出られない。
最終節はアウェイでのエクアドル戦。
メッシは復帰するが、アルゼンチンには不利な高地での試合。
しかもエクアドルも予選突破ギリギリの状態となりそうなので、勝ったほうがプレーオフ、負ければ予選敗退ということになるかもしれない。
ブラジルW杯準優勝のアルゼンチンは崖っぷちに立たされている。
 
 
そしてこの試合の直後、タピアがアルゼンチンサッカー協会(AFA)の新会長に就任。
AFAのグロンドーナ元会長は、FIFAの副会長も長年勤め、ブラッター元会長の側近中の側近だった。
グロンドーナの死後AFA会長となったセグーラおよび幹部たちは、もちろんグロンドーナ一派。
インファンティーノ体制となった新FIFAは、改革の名のもとに守旧派一掃に出た。
セグーラは会長の座を追われ、FIFAが任命したペレスを委員長とする「正常化委員会」が作られ、これが実質的にAFAを運営してきた。
これまで9か月以上にわたり、AFAは会長不在だったのだ。
 
 
新会長タピアの初仕事は代表監督バウサの解任だった。
タピアの構想は、後任に元チリ代表監督で現在はセビージャを率いるサンパオリを据えることだった。
しかしセビージャの会長から抗議のメールは届くし、当のサンパオリもセビージャに留まる意向で、タピアとの会談すら拒否。
バウサを切ったはいいが、後任不在という状況になってしまった。
 
 
そしてこの前の日曜日は、またしてもスタジアムで死者が出た。
ベルグラーノ対タジェレスのコルドバ・クラシコでのこと。
ベルグラーノサポーターで埋まるスタンドで、一人の男が袋叩き似合い、最後は階段通路に叩き落され、脳挫傷で死亡した。
このシーンはテレビカメラでしっかり撮られており、それが何度もニュースで流された。
 
 
被害者のバルボは、4年半前に弟を交通事故で亡くしている。
その事故の加害者ゴメスをスタンドで発見し、バルボが詰め寄った。
交通事故とはいえ、遺族にすれば殺されたとの思いが強い。
するとゴメスは、「こいつ、タジェレスの刺青してるぞ」と叫んだ。
周囲のベルグラーノサポーターはこれを信じ、バルボを殴り始めたのだ。
 
 
アルゼンチンではサポーター同士の殺傷事件は珍しくないが、今回は事件の異質さとショッキングな映像があったせいで、大きな反響を呼んだ。