ボカのホームスタジアム、ボンボネーラ。
サポーターが歌いながら一斉にジャンプを始めると、スタジアムがグラグラと揺れる。
そのことについて、「ボンボネーラは揺れるのではない。鼓動するのだ」といった有名な言葉がある。
 
 
さて、振動でおなじみのそのボンボネーラが、今は別の理由で揺れている。
それは、新スタジアム建設か改築かというテーマ。
1940年に建設され96年に大改修されたボンボネーラの収容人員は49,000人。
しかし、これでは手狭になった。
一般入場者の多さもさることながら、ソシオが増えすぎて対応できない。
月額約3000円を払っているソシオは、会員証によって無料観戦ができる。
ところが、そのソシオを受け入れるスペースがなくなったのだ。
 
 
ホルヘのマンションに住むおじいさんもボカのソシオで、たまにボンボネーラまでご一緒することがある。
彼は終身会員で、会費も無料だという。
ビタリシオと呼ばれる終身会員制度は、アルゼンチンではさまざまなクラブや組織で採用されている。
規定はそれぞれの組織によるが、たとえば、「30年以上会員であり満65歳以上のものは終身会員の資格を有す」という感じ。
長年会費を納めたうえで年金受給年齢に達すると、以後は会費を払わなくても会員でいることができるという制度だ。
 
 
日本自動車連盟(JAF)のアルゼンチン版ACAや、ゴルフクラブにもこの制度はある。
会員として長年にわたり組織を支えてくれたことに対し、老後は無償で報いようとの理念だが、ここにも高齢化の影響が顕著に表れている。
みんな、長生きになってしまったのだ。
規定に達して有資格者となったものがうじゃうじゃいる。
これをすべて無料の終身会員にしたら、組織の経営がままならない。
そこで有資格者となったものは、ウェイティングリストに入り、通常会員のまま席が空くのを待つことになる。
 
 
ゴルフクラブにもこのような例は山ほどある。
90歳以上で入院していて、もう二度とゴルフはできないという人でも、終身会員として居座っている。
“終身”というからには、死ぬまで会員なのだ。
これが昔であれば、そのような高齢の終身会員はクラブや会員の誇りであり、「ゴルフをしていたから長生きできるんだ」という“ゴルフ=健康”のシンボルとして称えられたであろう。
しかし現在では90歳以上など珍しくもなく、順番待ちの有資格者をいらだたせるだけ。
彼らの中には、「クラブに来ることもできない終身会員は早く死ね」と思っている人もいるはずで、この制度にも見直しが必要だと思われる。
 
 
さて、話はボンボネーラに戻るが、これまでソシオを増やすことに熱心だったボカも、スタンドのキャパがないことから一般会員の受付を現在は中止している。
受け付けているのは、準会員という、ボカの施設を利用できるが無料観戦はできないものだ。
  
 
ボカのアンヘリッチ会長は、65,000人規模の新スタジアム建設をかねてから訴えていた。
アルゼンチン大統領のマクリはボカの元会長でアンヘリッチとも懇意。
今年4月、郊外に建設された練習施設の開場式にはマクリもヘリコプターに乗ってやってきた。
ブエノスアイレス市市長もマクリのグループなので、新たな場所にスタジアムを建てる場合の土地取得に大いなる便宜が期待される。
アンヘリッチとすれば、「やるなら、今がチャンス」との思いだろう。
 
 
ボンボネーラは上から見るとD型で、直線の部分のすぐ裏は道路、反対側の裏には線路が走っている。
つまり、道路と線路に挟まれた狭い敷地なのだ。
ここにスロベニア人の建築家スルシッチが、斬新なデザインによる大観衆収容可能なスタジアムを建てた。
こうした経緯から、スロベニア大使館よりボンボネーラ存続を要請する文書がボカに送られてきた。
サポーターの多くも移転やモダンな新スタジアムには消極的。
スルシッチと関係あるのか知らないが、スロベニア人建築家からは改築で収容人数を大幅に増やす案が届けられたとか。
  
 
はてさて、揺れるボンボネーラの行く末はいかに。
 


About The Author

ホルヘ三村

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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