10月31日にマンハッタンで起きた小型トラックによる暴走テロで8名が犠牲となったが、このうち5名がアルゼンチン人だった。
ロサリオの学校の同窓生が、卒業30周年を記念してアメリカ旅行を企画し、ニューヨークを観光中にこの惨事に巻き込まれた。
レンタサイクルで自転車専用道路を走行していたところ、後方から暴走トラックに次々とはねられたという。
 
 
この事件は翌日、当然のごとくマスコミで大きく取り上げられたが、このニュースと同じかそれ以上に各メディアがスペースや時間を割いたのは、31日に行われたコパ・リベルタドーレス準決勝のラヌース対リーベルだった。
 
 
第1レグはホームのリーベルが1-0で勝っている。
最少得点の勝利では十分なアドバンテージとはいえず、ガジャルド監督はこの試合に万全の態勢で挑んだ。
週末のリーグ戦では主力を温存し、若手編成でタジェレスと対戦。
劣勢や敗戦は覚悟の上とはいえ、0-4の大敗は想定外だった。
ちなみにこの試合で、ガジャルドの息子ナウエル(18歳)が先発でプロデビューを飾った。
 
 
そして迎えた準決勝。
アウェイチームのサポーターが入れないスタンドは、ラヌースファンで超満員。
しかしリーベルが22分までに2ゴールを奪った。
これでトータルは3-0となり、もはや勝負は決したはずだった。
 
 
ところがラヌースは後半4得点を決めて大逆転に成功。
これは、奇跡的な展開だった。
この大会は準決勝からビデオ判定が導入され、ラヌースの4点目はビデオ判定によるPKから生まれたものだった。
主審は当初、反則はないとしてゴールキックのジャッジをしたが、ラヌース選手の抗議とアシスタントレフリーとの相談でビデオ判定に持ち込んだ。
 
 
実は、これと同様のケースが前半40分にもあった。
リーベルFWの浮き球の切り返しがラヌースDFの手にあたり、さらにFWはDFの脚に引っかかって倒れた。
ビデオで見ると、ハンドの反則でおかしくない。
故意ではないとの判断もできるが、そのあとのトリッピングがあるので、合わせ技一本でPKは免れないところだった。
 
 
しかし主審はビデオ判定すらしなかった。
ガジャルド監督は試合後、「ビデオ判定を片方のチームが有利になるように使っている」と激怒。
たしかに公平性を欠いている。
これが大問題となり、テロの5名死亡に匹敵する注目を集めたのだ。
 
 
賛成と反対のさまざまな意見があるビデオ判定だが、ビデオで確認すれば正確性が大幅に増すことは間違いない。
ただ、ビデオを見るかどうかは審判団、最終的には主審の判断だ。
この部分には、人間性の入り込む余地があり、今回はそれが問題を引き起こした。
 
 
ラヌースDFのハンドは、リーベルが2-0で勝っているときだった。
ホルヘも審判経験者だからわかるが、審判にも人情はある。
判官贔屓というのではないにしろ、ここで3-0にして試合を決定づけるのは忍びない。
この段階でホームチームに引導を渡せば、サポーターの暴動を引き起こす可能性もある。
 
 
2試合のトータルが3-0になっており、大勢は決まっている。
ここは波風立てないほうが無難だ、と考えるのはむしろ普通のことだろう。
相手のハンドを誘いそのあと倒されたリーベルFWですら、PKにならなくても笑って済ませていた。
「決勝進出は決まった」と思っていたからだろう。
 
 
あのまま2-0で終わっていれば問題なかったが、逆転されたから大騒ぎとなったのだ。
コンメボルの審判委員長は、「ビデオ判定はまだ公式のものでなくテスト段階で、今後に向けてさまざまな意見が取り入れられる」と語っている。
こうした出来事のひとつひとつが、ビデオ判定の改善や正式採用見送りの判断材料となるのだろう。
得点やPKに関するアピールを受けたら、主審は必ずビデオで確認しなければならない、という規則ができるかもしれない。
 
 
2013年のコパ・スダメリカーナを制し南米王者の経験があるラヌースだが、コパ・リベルタドーレスの決勝戦には初出場。
対戦相手はブラジルのグレミオで、試合は11月22日と29日に行われる。


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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