日本人が「南米」と聞いて連想するのは、リオのカーニバル、アマゾン、サンバ、タンゴ、イグアスの滝、そしてインカ帝国とアンデス山脈といったところが一般的だろう。
上野の国立科学博物館で「古代アンデス文明展」というものが18日まで開催されている。
 
 
南米の古代文明というと、インカという言葉が思い浮かぶ。
たしかにインカは現在のコロンビアからチリまでにまたがる巨大な帝国だったが、名を遺したのは、それが最後の古代文明だったことにもよる。
最後の武士社会だった江戸時代が、鎌倉時代より世間に知られているのと同じことだ。
 
 
南米では少なくとも紀元前3000年ころに文明が生まれたとされ、そこからさまざまな文明へと発展していった。
乾燥地帯である海岸線とアンデス山脈の高地では文明も異なり、それが互いに影響しあったり争いながら長い時代を経ていった。
そして最後に現れたインカが広大な地域を統合したが、16世紀にスペイン人によって滅ぼされる。
インカ以前にはナスカ、モチェ、シカン、チムー、ティワナク、チャビン、ワリなどの文明があり、それらとインカを合わせたものがアンデス文明ということになる。
 
 
遺跡とか考古学に興味はないのだが、南米の定番の一つであるアンデス文明なので、勉強がてら行ってきた。
インフルエンザにかからないよう人混みを避け、すいていそうな平日を狙った。
ところが平日なのに、上野公園はいつもより人が多い。
シャンシャンのせいかもしれない。
着いたのは午後1時ころで、「本日の整理券はなくなりました」という看板があった。
係の人に、「今日は何時になくなったの」と訊くと、「12時です」とのこと。
平日なら、12時前に行けばシャンシャンを観られるようだ。
 
 
アンデス文明展も予想より盛況だった。
展示物を撮影しようとしても、その前に人がいるので撮りにくい。
ちなみにフラッシュは禁止ながら撮影はOK。
ただし、ミイラが展示されているブースだけは撮影が許されていない。
 
 
展示場内はそれぞれの文明ごとにブース分けされている。
土器や織物などの出土品が展示されおり、文明によってそれぞれの特徴があるという。
しかし、どうもホルヘには興味がわかない。
 
 
そんな中でも、「お、これは」と思ったのはキラキラ輝く金製品。
インカは黄金の都と呼ばれているが、金を精製し加工する技術はモチェやシカン文明で生まれたもので、インカはそれを受け継いだに過ぎないとのことだ。
 
 
そして金製品以上に目を奪われたのは、シカンのロロ神殿で発掘された頭蓋骨。
これは高貴な身分の埋葬者で、金属製のマスクを被った状態で見つかった。
 
 
ミイラには、頭蓋骨とはまた違う感慨がある。
来館者の中には思わず手を合わせる人もいたが、その気持ちはよくわかる。
インカでは、ミイラには生まれ変わり信仰や神への生贄という意味合いがあったようだが、説明によるとそれは後付けだという。
地上絵で有名なナスカにはナスカ文明があった。
ナスカは砂漠地帯で、死体は自然とミイラ化するのだそうだ。
ミイラという肉体が永遠に残る死がベースにあり、後世になり、それが様々な意味を持つようになったようだ。
 
 
古代アンデス文明展は科学博物館の特別展で、本館では他の常設展が開催されている。
ついでにそこへも足を延ばした。
日本列島をテーマにしたものが多く、縄文人や江戸時代の人の蝋人形がリアルで驚いた。
 
 
日本の野生動物は北へいくほど大型化しており、それは体温の調整に関係しているのだそうだ。
エゾシカは本州のシカより大型で別の種類とされていたが、最近の研究では同種が気候によって変化したものとされているそうだ。
勉強になった。
たまには、博物館へ行くのもいいものだ。
 

 


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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