Jリーグ発足以前の日本サッカーリーグ(JSL)時代にもカップ戦があった。
ナビスコやルヴァンなどの冠名はなく、そのものズバリのJSLカップという名称。
後援が中日新聞社ということで、中部や東海地方での試合が多かった。
正確な記憶はないのだが、1988年頃の8月に準決勝あたりを取材に行った。
読売クラブ対フジタか日産だったと思う。
東京ヴェルディの前身である読売クラブは、当時、全盛期でとても魅力あるチームだった。
 
 
試合中、読売のゴールキックになったときのこと。
普通ならボールボーイがGKにボールを渡すのだが、そのボールがいつまでたっても来ない。
スタジアムは陸上トラックのない球技場で、ピッチの角の方でボールボーイは椅子に座っていた。
相手チームが蹴ったボールはゴールラインを割り、その後コロコロとボールボーイの足元へ転がった。
しかしそのボールボーイは、なんと爆睡していたのだ。
 
 
当時はマルチボールシステムではなく、試合は同じ一つのボールで続けられていた。
GKの菊池が、「オイ、ボールボーイ、起きろ!」と何度も怒鳴るが、彼は眠りから覚めない。
読売はこのときビハインドだったのか、早くリスタートしたかった。
結局、菊池が走ってボールを取りに行き、ついでに頭をひっぱたいた。
 
 
当時のボールボーイは、主催者が高校のサッカー部の監督に依頼し、部員を出してもらうケースが一般的。
彼も間違いなくサッカー部員だった。
それなのに、読売の試合で居眠りをしてしまうとは、よほどお疲れだったのだろう。
 
 
日本でも今はそうかもしれないが、南米のボールボーイは、ホームチームのユース選手が務めている。
幼いころからマリーシアが身についている彼らのことなので、当然のごとく自チームを有利にしようとする。
自チームが急いでいるときは素早く配給し、逆に相手が急ぐときはゆっくり行う。
GKやFKのときに、2人が同時にピッチ内にボールを投げ込むというのも、よくある作戦。
一方のボールをピッチ外に出さないとリスタートできないので、そこで時間稼ぎができる。
自チームのFKやGKであれば、選手がそのチャンスを最大限に活かしてリスタートを遅らせる。
その他にも、相手をイラつかせようとあの手この手を仕掛けてくるのだ。
 
 
しかしこれもやりすぎると、主審がそのボールボーイに退場を命じることがある。
主審というのは単なる裁定者でなく、試合のコンダクター的要素ももっている。
そして主審自身に、よきコンダクターであろうという意識が強い。
彼らが恐れるのは、コントロールできずに荒れた試合になってしまうことだ。
 
 
試合前に行う審判団のミーティングで、「立ち上がりの10分ほどは、極力アドバンテージを適用しないようにしましょう」と申し合わせることが多い。
審判が心がけることの一つに、スムーズランニングというものがある。
これは、やたらと笛で試合をぶつ切りにせず、流すべきは流して試合をスムーズに行わせること。
そのためには、積極的にアドバンテージを適用する。
しかし最悪なのは試合が荒れることなので、立ち上がりはしっかりと反則を取って、選手に秩序を持たせようとするのだ。
 
 
また、「この主審は厳しいぞ」と選手に思わせるのを好むタイプもいる。
この手の主審にとって格好のターゲットが、やりすぎのボールボーイ。
選手やベンチスタッフと違い、彼らの1人や2人を退場にしても試合には何ら影響はない。
しかし退場を命じることで、主審の権限を誇示することができるからだ。
 
 
しかし時には、退場以上の目に合うこともある。
つい先日、ブラジルのスル・マットグロッソ州リーグでボールボーイが悲惨な目に合った。
コメルシアル対オペラリオの試合で、終了間際にホームのコメルシアルが決勝ゴールを決めると、オペラリオの選手がボールボーイに馬乗りとなり、マウントポジションからボコボコにした。
この選手レイスによると、得点後にボールボーイのクッチが侮辱的なゼスチャーをしたのだという。
 
 
クッチは2軍のGKで、大学の学費稼ぎのためにボールボーイのバイトをしている。
いつもは練習後に大学へ通っている真面目な青年らしい。
彼によると、喜んだだけで侮辱的なことはしていないそうだが、真相は不明。
試合中にいろいろやっていたのかもしれない。
とにかくこれで、クッチは顔面を骨折し、レイスはクラブから解雇された。
アウェイチームにとってボールボーイは敵というのが南米では常識だが、これほど直接的なバトルはさすがに珍しい。
 
 
そういえば、読売新聞と中日新聞は犬猿の仲として有名だ。
JSLカップのボールボーイは、地元の中日新聞のため読売に嫌がらせをしたのかもしれない。


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ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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