ボリビアの憂鬱 ホルヘ三村 2018年7月30日 ホルヘ・ミム〜ラ, ボリビア ボリビアはラパスの名門クラブ、ザ・ストロンゲストは今年4月に負けるまで、コパ・リベルタドーレスのホームゲームで19戦無敗を誇った。 内訳は14勝5分けで、2013年4月のサンパウロ戦(2-1)から今年3月のペニャロール戦(1-0)まで5年間に渡っての記録だった。 ラパスは標高3600メートルの高地。 ビジターは、酸素が薄く息が上がるだけでなく、頭痛や吐き気などの高山病の症状に襲われることもある。 気圧が低いためボールが伸び、平地とは異なる軌道にも悩まされる。 ボリビアが最後にW杯出場を果たしたのは、1994年アメリカ大会。 そのときは“エル・ディアブロ”エチェベリや“プラティニ”サンチェス、クリスタルド、ソリア、横浜マリノスでプレーしたバルディビエソらタレントが揃っていた。 しかしその後は、高地という武器を持ちながら低迷が続いている。 選手の育成、クラブ及び代表の強化が進んでいないようだ。 一体、ボリビアのサッカー界はどのようになっているのだろうか。 参加クラブをAとBのグループに分け、各グループでリーグ戦を行い、それぞれの上位4チームがタスキ掛けのトーナメントに進む大会でのこと。 グールプBのサンホセは、2位に勝ち点9もの差をつけて1位となった。 トーナメント1回戦の相手はグループA4位のデストロイヤー。 第1レグはホームのデストロイヤーが1-0の勝利。 そして第2レグはサンホセが8-0で圧勝した。 しかし、ここからなぜかPK戦に突入。 大会のレギュレーションで得失点差を認めていないのだ。 得点の多さに関係なく、1勝1敗ならPK戦で勝ち上がりを決めるようになっている。 通常のシステムだと、第1レグを0-3で落とせば、その時点で敗退がほぼ決まる。 サポーターの多くもあきらめてしまう。 しかし1勝1敗ならPK戦というルールなら、第2レグを1-0にすれば勝ち上がる可能性が出てくる。 サポーターは応援に駆け付ける。 第1レグを3-0で制したチームのサポーターもうかうかできず、スタンドで応援することになる。 観客動員という目的では、このシステムは効果がありそうだ。 しかし、競技の公正という点では大いに疑問だ。 今回はサンホセがPK戦を制したが、苦労してリーグ1位となり、トーナメントでトータル8-1としながらPK戦で負けたら、選手はたまったものではない。 それまでの努力と結果がすべて水泡に帰してしまう。 協会が興行を重視しすぎたため、「がんばっても報われない」あるいは「ずっとがんばらなくても、運次第で勝てる」という意識が選手に浸透しているかもしれない。 そのような考えは、努力や戦意の低下につながるのではないか。 ボリビアは経済的に不安定で、それがサッカー界にも悪影響を及ぼしている。 1部リーグのウニベルシタリオ・デ・スークレ対ウィルステルマンでのこと。 この日、U・スークレの選手は給料未払に抗議してストを行っていた。 しかし協会は特別な措置を取らず、試合は予定通り行われることになった。 選手がいないU・スークレは、ユース選手をかき集めてスタジアムに到着。 しかも、サブメンバーなしの11人ジャストで、GKは何と15歳。 当然、ボコボコにやられ、前半を終えて0-8の大差。 そして後半が始まると、ピッチに戻ってきたのは7名のみ。 4名は疲労と負傷でリタイアとなった。 そして後半開始2分、さらに1人が負傷で動けなくなり、7名に満たなくなったため主審はそこで試合を打ち切った。 一体、選手登録の制度はどうなっているのだろう。 プロ選手がスト中だからといって、ユースの選手だけでプロリーグに参戦可能なことが不思議だ。 選手が6名になったので打ち切りとなった試合は他にもある。 レアル・ポトシ対グアビラでのこと。 R・ポトシの選手4名がレッドカードをもらい、後半30分に1名が負傷でプレー続行不可能となった。 すでに交替枠を使い切っていたため、主審は打ち切りを宣言。 するとR・ポトシのグティエレス会長は激高し、「やつは卑しい犯罪者だ。買収されてうちが負けるようにした」と主審を提訴した。 もし主審が買収されていれば、それはボリビアサッカー界が汚れ切っていることの証だが、もし公正に笛を吹いていたとしたら、4名もが退場処分を受けるのは、選手のモラルの低さを物語っている。 乱闘では数名が同時に退場になることはあるが、今回はそうではない。1人ずつ減っていったのだ。 このR・ポトシのグティエレス会長は何かと問題のある人物のようで、彼が協会から認められた会長であるにも関わらず、ソシオによる会議でサントスが会長に任命された。 しかしグティエレスは、「会長は自分だ」と居座っている。 そして何と、それぞれの会長が独自に監督と契約を結び、選手たちは両監督の元に二分された。 同一クラブ内に2名の会長、2名の監督と2チームが存在するという異常事態。 2チームは別々の場所で練習を行っている。 そしてついに、試合の日が来た。 主導権争いによるトラブルが起こる恐れもあり、警察が出動してそれに備えた。 そして話し合いの末、両監督ともベンチに入らず、指揮は両チームのキャプテンに任せるということとなった。 ちなみに、試合は1-1で引き分けた。 なんとも信じられないことばかりだが、これらはすべて、ボリビアの1部リーグで今年起きている。 過去に遡れば、似たようなスキャンダルはまだまだあるだろう。 このような状況では、W杯への道は険しくなるばかりだ。 Tweet