スポーツ界で続出するパワハラに暴力問題。
長らく少年サッカークラブの監督を務めていたホルヘにも、身に覚えがある。
とはいえ、明らかな暴力として記憶しているのは1度のみ。
他の子どもに危険を及ぼしかねない行為をした選手の頬に、強いビンタを喰らわせた。
咄嗟にカッとなって叩いたため、手加減できず思わぬ力が入ってしまった。
唇から出血したのを見て、大いに慌てて「やりすぎた」と反省。
まだケータイのない時代だったので、練習後にその子の家へ電話をし、説明と謝罪行った。
 
 
手を出したのはこれくらいだと思うが、パワハラ的なことは日常茶飯事。
子供たちに言うことを聞いてもらうためには舐められないことが一番だと信じ、怖い存在であるよう心掛けた。
罰ゲームもバンバンやった。
時には恫喝のようなこともしたと思う。
 
 
15年間ほどはこのスタイルだったが、指導者の勉強をしていくうちに、子供たちが楽しく積極的に練習するほうが良いと宗旨替えした。
成人になったOBがクラブを訪ねに来ると、「監督ずるい、俺たちの時と全然違う」と文句を垂れるほどの変わり身だった。
 
 
技術取得の反復練習は飽きてくるし、持久力を高める心肺トレーニングは苦しくてサボりたくなる。
筋トレも同様だ。
限界を越えなければ効果が薄いのに、選手はその手前で手を抜いてしまうことがある。
そうさせないようにするのも指導者の仕事であろう。
きつい言葉で追い込んだり、ノルマを達成できなければペナルティを与えることでモチベーションを上げさせる。
こうした行為もパワハラだとなると、これはやりくいことになる。
 
 
全米オープンで躍進した大坂なおみのコーチは、とにかく選手を乗せるのが上手いという。
気分を良くさせてやる気を引き出す指導がメインとなっている。
しかしその一方で、選手にきつい言葉を吐き、怒らせて発奮させることもあるそうだ。
罰ゲームも行っており、その模様をビデオに撮ってSNSにアップしている。
 
 
やはり人間は弱いものなので、褒めるだけでは限界があり、時にはチクリと刺されることも必要なのだろう。
それが選手の背中を押し、苦しい一歩を踏み出す助けとなる。
いわゆる、「気合を入れる」ということだ。
 
 
アルゼンチンにグリグオルという監督がいる。
彼は試合開始前に独特の儀式を行う。
ピッチに入場する選手一人ひとりにビンタで気合を入れるのだ。
アルゼンチンでは、スポーツ界に日本のような暴力体質はない。
子供の人権もしっかりしているので、指導者が手など上げたら大変なことになる。
しかし彼はこの方法を貫き、選手もこれを受け入れている。
スポーツ選手が自分の顔をパンパン叩いて気合を入れるのは、よく目にするシーンだ。
それを他人にやってもらえば、より気合が入るような気がするという選手もいるだろう。
 
 
暴力と、選手が納得しての気合入れビンタとは異なるものだ。
神頼みのような思いで、「気合入れてください」と願う者もいる。
アントニオ猪木のビンタは、それでなりたっているのだ。
現在の反暴力の風潮がこのまま進めば、「気合入れのビンタも暴力」ということになりかねず、猪木のビンタも消滅してしまう。
そんなギスギスした社会は面白くない。
くれぐれも、味噌とクソを一緒にしないでもらいたい。