リーベルのバラスによるボカ選手襲撃という凶行で順延となったコパ・リベルタドーレス決勝第2戦。
ボカとリーベルの対戦はスーペルクラシコとして知られるが、今回は大会史上初となる決勝戦での激突ということで、メガクラシコやメガフィナルと呼ばれ異常な熱狂に包まれていた。
外国メディアも多数取材に訪れ、そのおかげでホルヘはまたも取材パス入手ができなかった。
申請者が多くなるとフリーランスは割を喰う。
というわけで、今回もテレビ観戦と決め込んだ。
 
 
24日の土曜日。
キックオフ予定は午後5時ながら、テレビでは午前中からメガクラシコ特集を放映していた。
両チームの前泊ホテル周辺には多くのファンが群がり、歌を歌って大騒ぎ。
通常、前泊はレギュラーとサブ選手だが、リーベルは登録の29名全員でお泊り。
チーム一丸で戦うという強い姿勢を示した。
 
 
ボカはサポーターの大集結を予想し、いつも泊まる中心地のホテルとは別のところを利用。
リーベルのガジャルド監督もボカのバロスケロット監督も今回は完全な秘密主義を貫き、スタメンとフォーメーションの予想で解説者を大いに悩ませた。
 
 
モヌメンタルスタジアム周辺には約2000人の警官が配備された。
スタジアムへたどり着くには3つのゲートを通過しなければならない。
そこでチケット、身分証明書の確認とボディチェックを受ける。
身分証明書は専用の機器で読み取られ、スタジアムへの入場禁止処分を受けているものはそこで退去させられる。
これらには相当な時間がかかるので、観客は3時間前にゲートに到着するように、というアナウンスがなされていた。
 
 
そして午後1時にゲートが開門。
その模様までもが完全生中継された。
続々と詰めかけるリーベルサポーター。
しかし中には、チケットを持っていないものもいる。
何とかゲートをすり抜けられないか、虎視眈々と狙っているのだ。
こうした連中の一人がゲートを飛び越えようとした際に他人を突き飛ばし、倒された人が足首を骨折するということもあった。
 
 
前日の金曜日には、警察がリーベルのバラスのアジトを捜索し、偽造チケット300枚とその売り上げとみられる約2100万円が押収された。
つまり、偽造チケットがかなり出回っている可能性がある。
 
 
午後3時を過ぎると、ゲートが突如閉められた。
スタジアムからの連絡によると、スタンドはすでに満員とのこと。
しかし、まだゲートの外にはチケットを持ったサポーターがたくさんいる。
偽造チケットやチケットなしでもぐり込んだものが相当数いるらしい。
 
 
正規のチケットを持っているのに締め出されたサポーターはたまったものではない。
警察への激しい抗議がやがてもみ合いとなり、その後は投石対催涙弾、ゴム弾の騒乱に発展。
チケットを持たない連中もこれに参戦。
混乱に紛れてゲートを突破しようという目論見だ。
 
 
ほぼ同時刻、リーベルとボカがホテルを出発。
その模様も逐次放映されている。
そして3時半ころ、あの事件が起きた。
十数台の警察車両に護衛されたボカの二階建てバスが、スタジアムまで5ブロックのところへ差し掛かった。
ここで大通りから脇道へ右折する。
そこにはリーベルのバラスとサポーターが待ち構えていた。
一般サポーターは水入りのペットボトルを投げ、バスに当たって破裂するのを楽しむのだが、バラスはビール瓶やこぶし大の石を投げつけた。
 
 
これで何枚もの窓ガラスが割られ、車内はパニック。
キャプテンのパブロ・ペレスが顔を押さえてうずくまり、誰かが「医者を呼べ」と叫んでいる動画がSNSにアップされた。
さらに投石は運転席へも飛び込み、直撃を受けた運転手は一時失神。
ボカの副会長が慌ててハンドルを持ったという。
 
 
ボカの選手たちの多くはシャツで顔を覆いながらロッカールームへと向かい、報道陣の問いかけに、「ペッパーガスだ」と答えた。
投石だけでなく、催涙ガスによる攻撃もあったのか、あるいは警察の使用したガスによるものなのか。
パブロ・ペレスは、救急車で病院へ搬送され、左の角膜が傷ついていると診断された。
 
 
これだけの出来事だけに試合の開始は危ぶまれたが、CONMEBOLは公式ツイッターで、「試合開始は1時間遅れの午後6時」と発表。
そのときのテレビ報道によれば、ボカのアンヘリッシ会長は「試合はできないと」申し入れたが、観戦に訪れていたFIFAのインファンティーノ会長が、「試合をしなければボカは失格だ」と介入したという。
しかし後日、FIFAはこれを否定している。
 
 
午後6時キックオフとなったが、その30分前になってもバロスケロット監督はメンバー表を出さず、選手に着替えもさせなかった。
その後、「キックオフは7時15分」と再度変更され、次は「7時45分」となり、そして翌日への順延が決まった。
 
 
リーベルのガジャルド監督は、「ボカがやらないなら、我々も同調する」と常に紳士的な立場をとり、順延が決まった後にはボカの選手たちの元を訪れ言葉を交わした。
 
 
翌日の日曜日に行われるはずだった試合も、昼過ぎに順延が決定。
リーベルのサポーターにケガをさせられたキャプテンが出場できない試合をさせられるのは不公平という訴えと、過去の例に鑑み、リーベルの失格を求める訴えがボカ側から出された。
過去の例とは、2015年のコパ・リベルタドーレスのボカ対リーベルで、後半のピッチに向かうリーベルの選手たちにスタンドからペッパーガスが噴射されたこと。
その際はボカが失格となりリーベルが勝ち上がった。
これに対しリーベルのドノフリオ会長は、「事件が起きたのはスタジアムの外で、我々の管轄外だ」と主張している。
 
 
27日にCONMEBOL本部で開かれる最終的な会議では、どのような決定が下されるだろうか。
 


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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