大分で行われたベネズエラ戦は、大渋滞のせいで間に合わない観客が多く、スタンドに空席が目立つ中でのキックオフになったとか。
同日、アルゼンチンでもメキシコとのテストマッチが行われたが、こちらも観客の入りは悪かった。
会場は第二の都市コルドバながらチケットが全体の約6割しか売れず、当日券の値下げ、「保護者同伴の12歳以下の子供は無料」という措置をとったものの、満員には程遠かった。
 
 
現在のアルゼンチン代表は監督が不在。
シメオネやガジャルドなどが候補に挙がるも、いずれもがクラブの指揮を選んで消えていった。
今回の試合はユース代表監督のスカローニが代理監督を務め、選手にもビッグネームはいない。
となれば、人気がないのも当然だ。
試合は2−0で勝ったものの、1年前に乗組員44名とともに沈没した潜水艦アラ・サンファンが発見されたことで、翌日はそのニュースで持ち切り。
代表の話題はほとんどなかった。
 
 
少し前のことになるが、10月の最終日曜日に、“ウチナンチューゴルフ愛好会”主催の大規模なコンペがあった。
今年はアルゼンチンへの沖縄県人移民110周年にあたり、それを記念しての大会だった。
110周年記念はアルゼンチンだけでなく、ブラジルとボリビアも同様。
ということで、ブラジルとボリビアからも参加者があった。
 
 
ホルヘは沖縄と無縁ながらこの大会に参加。
しかも、日本から重要なアイテムを携えていった。
日本にいた8月、愛好会の幹部から、「記念大会で使う始球式のボールを買ってきてほしい」と頼まれていたのだ。
 
 
打つと煙や紙テープが出る始球式のボールは、ゴルフショップで簡単に手に入る。
ようするに簡単な依頼なのだが、このようなときこそ慎重に考えなければならない。
煙が出るものと紙テープが出るものでは、煙タイプのほうが見栄えがいいような気がする。
値段にも大差はない。
となれば普通は煙タイプを選ぶのだが、煙が出るということは、なにがしかの火薬類が使われている可能性がある。
火薬は危険物なので、飛行機に乗る際の荷物チェックで発見されれば没収されてしまう。
このようなホルヘの深慮により選ばれた紙テープタイプが、始球式用ボールなど売っていないアルゼンチンへ渡り、記念すべき大会のオープニングを飾ったのだった。
 
 
南米には他にも、ペルーとパラグアイに日系移民が多い。
二世や三世にも日本語が話せる人たちがおり、訪れた日本人を助けてくれる。
最近は少なくなったものの、サッカー留学やチームの南米遠征などでも、彼らに頼ることは大だ。
しかし日本で現在使われている日本語と、100年以上前に渡って現地で受け継がれていった日本語には若干の違いがあり、ときにそれで戸惑うことがある。
 
 
南米10か国のうち、ポルトガル語なのはブラジルだけで、あとはスペイン語が公用語となっている。
スペイン語のJUGAR、ポルトガル語のJOGARは、ともに英語のPLAYに相当する。
PLAYには「遊ぶ」という意味もあるし、スポーツの場面では「戦う」とか「競技する」という意味になる。
つまりJUGAR、JOGAR、PLAYは多様性がある。
しかし日本語には一語でこれに相当する言葉がない。
そこで、ときにはおかしなことが起こる。
 
 
遠征中のサッカーチームに、そのガイド役の日系人が、「明日は10時から遊びます」といったら、そのチームのメンバーは何と思うだろうか。
「明日の午前は練習試合のはずだったけど、観光に変わったのかな」と思ってもおかしくない。
しかし日系人は、「10時から練習試合です」という意味でいっているのだ。
一般的に日系人はJUGARを「遊ぶ」と訳す。
 
 
「遊ぶ」が「プレーする」という意味だということはチーム側がすぐに気づき、実際には大した混乱とはならない。
しかし選手が真剣に戦おうとしているのに、「遊ぶ」といわれると力が抜けてしまう。
同様なのが毬(マリ)だ。
今の日本人は外来語としてのボールを当然のように使っているが、日系人にすればボールは英語。
普段使わないから馴染みがない。
スペイン語のPELOTAを日本語に訳せば、それはマリかタマになる。
タマならまだいいが、「マリを持って行ってください」などといわれると、毬遊び連想して馬鹿にされたような気分になる。
 
 
ブラジルの日系人は、JOGARを「投げる」という。
カズがサントスでプレーしているということを、「カズはサントスで投げてるよ」という。
初めて聞くと、サッカー選手が何を投げているんだろう、と不思議に思う。
当然、遠征中のサッカーチームにも、「明日は10時から投げます」という。
戸惑うのは最初だけだが、耳が慣れるまでには時間がかかる。


About The Author

ホルヘ三村

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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