噛まれた番犬 ホルヘ三村 2019年3月11日 アルゼンチン, ウルグアイ, ホルヘ・ミム〜ラ サッカーのルールは、接触プレーへの判定とペナルティがどんどん厳しくなっている。 選手の保護が最大の目的で、それとともに試合を公正にかつよりスリリングにするためだ。 最近はあまり耳にしなくなったプロフェッショナルファール。 「ここで抜かれたらヤバイ」「パスを通されたら大ピンチ」という場面で意図的に反則をすることだが、以前はFKのみの罰だったのに、現在は警告の対象となっている。 警告覚悟でファールする選手も多いが、すでにその試合でイエローを1枚もらっていればそうはいかず、その結果、決定機が生まれやすくなる。 試合を面白くするために、この改正は効果があった。 また、FIFAが提唱しているフェアプレー精神が単なるお題目とならないよう、「プロフェッショナル」と一種の賞賛で呼ばれるこの反則が「害」であることを周知させた。 今でもシニアリーグでは、タックルの際にファールを取られると、「ボールに行ってる」と文句を言う選手がいる。 ボールを先に蹴り、そのあとで相手の足に接触することが以前は合法だった。 足とボールを同時に蹴っ飛ばしてもOKだった時代もあるし、後方からのタックルも普通のプレーだった。 しかしそれらが次々と禁止されていった。 反則でなかったものが反則になり、FKのみだった反則が警告対象となり、イエローだったものが一発退場になるなど、ルールは厳しくなる一方だ。 ウルグアイが90年代に低迷したのは、持ち味だった「荒っぽさ」が使えなくなったことが大きい。 サッカー発祥のイングランドは紳士の国と呼ばれるが、勇猛果敢を尊ぶ国でもある。 ゴールエリア内のGKへの接触プレーを禁じたキーパーチャージが国際ルールになっても、イングランドはそれを採用せず、GKへの体当たりを認めていた。 そして、ルールと判定には従うという紳士的な面も兼ね備えている。 「激しさと潔さ」を愛するイングランド人によってサッカーは生まれたのだが、世界中のすべての人たちが同じような考えではない。 国民性というのはさまざまなのだ。 足を蹴られたらFKを得る。 これは普通のことだ。 反則を受け、その代償としてFKが与えられ、それでイーブンとなる。 しかし南米などでは、「それはおかしい」と考える。 足を蹴られて痛い目に遭ったのに、FKでおあいこでは割に合わないというのだ。 やられたらやり返すのが基本で、相手にも痛い思いをさせなければバランスが取れないと思っている。 やりかえして、相手にFKを与えてはじめて五分五分となる。 しかしイングランドを中心とするヨーロッパ人からすれば、これは復讐という野蛮行為だ。 そしてそれを封じるため、ルールがまだ甘かった時代にも、「報復行為は警告処分」ということになった。 A選手から反則を受けたB選手がA選手にファールすると、報復行為とみなされてイエローカードが突き付けられた。 すると、これに対抗するために南米では、代理報復というシステムが導入された。 反則を受けた選手本人が仕返しをすると警告なので、別の選手がその役を務めるのだ。 90年代のコロンビア代表には、バルデラマというスーパースターがいた。 そしてその「代理報復人」がボランチのアルバレス。 クルクルのロン毛と髭面。 マイアミバイスやアル・パチーノのギャング映画に出て来る悪党のような風貌。 顔も怖いがやることも怖い。 バルデラマを守るために報復ガンガン削る。 そのため、「番犬」という異名もあった。 このアルバレスも今や監督となり、今季はパラグアイのリベルタを指揮することとなった。 2月に行われたプレ・コパ・リベルタドレースの第2ラウンドでボリビアのザ・ストロンゲストをトータル6-2で撃破し、第3ラウンドでは母国の名門A・ナシオナルをPK戦で下して本大会へ出場を決めた。 そして3月6日に行われた本大会初戦も、チリのウニベルシダ・カトリカに4-1と絶好調。 ところが翌日、練習へ赴いたアルバレスは、クラブから施設への立ち入りを禁じられた。 その後、クラブ会長はアルバレストの契約破棄を発表した。 理由は、選手たちとの関係が良好でないとのことだった。 なぜ、選手たちとの関係が悪いのか。 現地メディアによると、アルバレスはリベルタの選手ベニテスの妻と不倫していたのだという。 彼はなかなかの女好きらしく、妻帯者だが現在は若い愛人と行動を共にしている。 しかしそれだけに飽き足らず、あろうことか選手の美人妻に手を出してしまった。 しかし、スキャンダルはこれだけに留まらない。 ベニテスのチームメイトであるカルドーソが、アルバレスの愛人と出来ていたというのだ。 番犬アルバレスは、まさかの代理報復を受けることとなった。 Tweet