先日、杉並区の審判打ち合わせ会に参加した。
区リーグ開幕を前に、各審判員の意思統一や情報交換、さらには新ルールの解釈や適用基準のレクチャー、そしてルールテストも行われた。
そこで多くの審判が口にしたのは、最近、主に手や腕で相手を引っ張ったり押したりする反則が増えているということだった。
成人の部だけでなく、高校生や小学生にもその傾向があるという。
そしてそれは、Jリーグの影響ではないかとのことだった。
なんでも最近のJリーグはあまり反則を取らないのだという。
つまり選手たちは取り締まりの緩いサッカーを観ているうちに、それを真似て反則をするようになっているらしい。
後日、Jリーグに詳しいライターにその話をすると、次のように答えてくれた。
国際試合では不可解な判定も多く、反則を受けた選手がセルフジャッジでプレーを止めたことで不利な展開になることがある。
また国際基準では、反則行為によって明らかな不利益を被らなければ、反則を取らないことが常識的となっている。
そこで選手たちにもその基準に慣れてもらおうと、協会が審判委員会に協力を要請したというのだ。
これによって以前よりは反則を取る回数が下がり、それで判定が甘くなったような印象となって一般選手の反則拡大につながったように思える。
しかし国際基準というのは、けっして判定が甘いというわけではない。
反則という行為よりも、それを受けた選手またはチームへの影響を重視しているのだ。
たとえば突破を図った選手が相手DFにシャツをつかまれたが、そのまま振り切って突破に成功した。
たしかに反則行為はあったものの、突破できたのだからこの選手や展開に影響はなかった。
となれば、ここでホイッスルを吹くことはない。
反則があってもそのままプレーを続けさせた方が、反則を受けたチームに有利と判断した場合、主審はアドバンテージを適用して「プレーオン」と叫んでプレー続行を指示する。
このケースも同様で、国際試合でも以前ならアドバンテージの対象だったが、最近はこの程度では反則と扱わないようになり、「プレーオン」ともいわなくなっている。
プレーに影響しなにのだから、反則そのものが存在しなかったかのように扱われる。
だから国際基準の選手は、ユニホームや腕を引っ張られたからといって、それが即、反則につながるわけではないと理解していなければならない。
もっとも引っ張った方の選手はその行為が主審に記憶され、その後、似たようなことを行えば、反則の繰り返しで警告の対象となる。
こうした事情でJリーグでは、これまで反則を取っていたシーンで取らなくなったことが増えたようだが、観客や視聴者は判定基準が甘くなったように感じ、自分が試合に出た時はその感覚でプレーしてしまうのだろう。
日々トレーニングしている選手は、反則を受けてもそれに耐えたり打ち勝つ可能性がある。
ところが、草サッカーレベルだと反則が負傷につながることも多いので、そこは節度を持ってもらいたい。
しかし小中高の育ちざかりでは、意図的な反則はありだとホルヘは思っている。
以前ある高校サッカー部の監督が、「DFにファールを覚えさせると、本来のディフェンス能力が育たない」といっていた。
しかし、何でもかんでも反則で止めるというわけではない。
相手を止めるためのオプションのひとつとして加えるだけだ。
つまり武器がひとつ増えるのだから、個人としてもチームとしてもディフェンス力は上がる。
もっとも熟練するには、日々の練習で技を磨かねばならない。
絶体絶命の場面を反則で止めて相手のFKになるのはよくあるケースだが、達人になると危機的状況になる少し前に、目立たないささやかな反則で相手の動きを制限してピンチの芽を摘むこともある。
チーム内の練習で故意の反則が常識化すると、攻撃側の選手にもメリットが生まれる。
反則に慣れることで、反則されそうな気配を察知できれば、対処もできるしケガ防止にもなる。
また、反則されない間合いをつかむことができる。
日本で小さな子供2人にボール1個を与えたら、向かい合ってパスをするか、ドリブルで相手を抜くことをするだろう。
しかし南米ではキープ合戦をする。
彼らはとにかくボールに触っていたいのだ。
だから、パスなどもってのほか。
ボールを保持し、相手に触らせないようにする。
しかしそれだけではなく、そこからターンして相手を交わすことも行う。
キープは、実戦ではゴールを背負っている状態。
ゴールを目指すためにはターンしなければならない。
ボールを左右にまたぐフェイントを入れながら、隙を見てターンを狙う。
相手もそうはさせじと必死で抵抗しながらボールを奪うことも考えている。
そこではお互いに押し合いへし合い引っ張り合いを行っている。
こうして、小さなころから反則に馴染んでいるのだ。