初めて会ったのは田無の韓国料理屋だったと記憶している。
知人に「絶対に土屋さんと話が合うと思うんですよね」と言われ、同じテーブルに着いた。
第一印象は、薄手のロンTを着ている”変わった人”。
ただ、その人とはのちにトンカツ仲間になるのだから、人生はわからない。
 
 
柴村直弥は、変わった人である。
まず、その経歴からして普通ではない。
シンガポール、日本、ラトビア、ウズベキスタン、ポーランド、そして再び日本。
都合5か国でプロサッカー選手として活躍してきた。
まさにオンリーワン。
柴村直弥しか辿れないキャリアを突き進んできた、まさに「独学フットボーラー」だ。
 
 
物腰は柔らかい。
ただ、押しは弱くない。
口調は穏やかだが、主張するところはしっかり主張する。
飄々としていながら、情熱的。
一見すると相反するような部分を、絶妙のバランスで兼ね備えている。
 
 
これもさまざまな経験から醸成された、人間的な厚みだろう。
何しろウズベキスタンでは英語が全く通用せず、明日の練習時間すらわからない状況に。
必死にロシア語を勉強して、少しずつ周囲とのコミュニケーションを成立させていったこともある。
まさに「独学フットボーラー」だ。

今回上梓された『フットボーラー独学術』には、そんな柴村が歩んできたフットボーラーとしてのキャリアと、そこから得てきた学びの数々が余すところなく記されている。
いつか本を書く日は来るだろうと予想はしていたものの、想像以上の濃厚な内容には少し驚かされた。
いや、嘘を吐いた。
実際にはちっとも驚かされていない。
このぐらいのボリュームと熱量にはなると、当然思っていた。
 
 
読み進めていっても、押し付けられている感じはまったくない。
文体の妙もあり、普段会話している時の柴村と何ら変わらない雰囲気が、文章には再現されている。
まあ、それは少しカッコつけているところもあるけれど(笑)、ほとんどがありのままの柴村といった印象を受ける。
 
 
元来の生真面目さは随所に滲む。
しっかりとした図解による説明。
理路整然とした語り口。
簡単には”(笑)”なんて使わない。
出色は「知る プロサッカー選手になるまでの支出」の項。
自身がプロクラブへ練習参加した際にかかった費用が事細かに記載されている。
なお、愛媛FCに練習参加した時の宿泊費は「旧友・猿田浩得選手の部屋に泊めてもらったためなし」。
思わず「ここまで書く必要ある?」とツッコミたくなるようなことまで、丁寧に書かれている(笑)。
 
 
2015年にはU-17ポーランド代表とU-17ウズベキスタン代表を、広島で開催されたBalcom BMW平和祈念広島国際ユースサッカー大会に招聘してしまう。両協会と粘り強く交渉を重ね、結果的に両国の代表選手が来日。大会期間には広島平和記念公園を訪れる平和学習も盛り込まれ、サッカーにとどまらない国際交流の架け橋ともなっている。そんな現役のサッカー選手、なかなか他にいないだろう。

これは自分独自の道を歩もうとする者にとってのビジネス書であり、プロサッカー選手を目指す若者にとっての参考書であり、柴村直弥というフットボーラーの自伝でもある。どんな人が手にとっても、必ず何かしらの気付きがあることは、私が保証しよう。何の後押しにもならない保証ではあるが、そこに関しては自信がある。

ウズベキスタンでプレーしていた時も、ポーランドでプレーしていた時も、帰国した際には必ず2人で池袋のトンカツ屋に行き、そのまま男2人でカフェへと流れ、スイーツに舌鼓を打つような数時間を過ごしてきた。
基本的に”変わった人”であるという印象はそのままだが、携えた信念には知れば知るほど尊敬の念を覚えていく。
 
 
今までも、これからも、柴村が自分の信じた独自の道を歩み続けていく「独学フットボーラー」であることに、疑問を挟み込む余地はない。