前回はモンテビデオの古いバーと時代物の便器について書いたが、ウルグアイには他にもアンティークなものがたくさんある。
保守的で、変化を求めない国民性なのかもしれない。
 
 
1930年の第1回W杯のために建設されたセンテナリオスタジアムも昔のままだ。
2030年のW杯100周年大会をアルゼンチンなどと共催しようという動きはあるが、たとえそれが実現してもスタジアムはこのままだという。
56年振りのオリンピックのために国立競技場を建て替える日本とは対極にある。
 
 
しかしおよそ90年前の建造物なので、老朽化だけでなく現代には合わない設計上の問題もある。
バックスタンドの前列はほぼピッチレベルに位置しているため、そこに座るとタッチライン際の広告ボードが視界を遮り試合が観られない。
昔は、このような無粋なものはなかったのだ。
 
 

 
ゴール裏には、水をたたえた堀がある。
これはもちろん、観客の侵入を阻止するため。
高いフェンスとの二重ブロックだ。
最近はスタンドでの火災などの際に、観客がピッチに避難できるようフェンスすら造らないことも多い。
しかし、ここでは頑なに伝統を守っている。
堀を潰して観客席を増やそう、などという姑息なことは考えない。
 
 
数年前までは汚い水が張られていたが、今回は非常にきれいだった。
隣国ブラジルで蔓延したジカ熱予防のため、蚊が繁殖しないよう頻繁に水を抜いて掃除をしているのかもしれない。
伝統を守るのも大変だ。
 
 
アルゼンチンのラシンスタジアムにも堀がある。
これは深さが3~4メートルもあり、水面はかなり下のほうになる。
「落ちたらやばいな」と感じさせる、つまり抑止効果の高い堀だ。
実際に落ちたらケガをする可能性が高いし、深い堀から這い上がることはまずできない。
堀としては完璧なものだ。
 
 
しかしセンテナリオのものは、浅いプールみたいで、「落ちたらやばい」とは誰も思わない。
落ちたところで、簡単に出ることができる。
水がきれいなので、夏などは入りたがる観客すらいるだろう。
 
 
ようするに、侵入者を防ぐという効果はほとんどないのだ。
しかし空堀とせず律儀に水を張り、ボールが堀に入った時のために柄の長い網を用意している。
センテナリオは、時が止まったままのようだ。
 
 

 
トゥリブナ・アメリカと呼ばれるメインスタンドの屋根には、「Monumento del Futbol Mundial(世界サッカー記念碑)」の文字が誇らしげに記されている。
そこには、世界的記念碑なのだから改修などしない、という意気込みが感じられる。
 
 
しかし変わったことがないわけではない。
照明が明るくなったのだ。
大きなスタジアムに貧相な4本の照明塔だけなのでカメラマン泣かせだったが、今は撮影に十分な明るさがある。
とはいえ、照明塔は以前と同じ。
LED灯だか何かは知らないが、電球自体が光度の高いものに変わった。
さすがのウルグアイ人も、「今まで暗かったんだから、明るくする必要はない」というほどの頑固者ではなかったようだ。