ネットニュースを見ていたら、奈良公園の公衆和式便所が非常に汚く、その原因は外国人観光客が前後を間違えて使用しているからだ、というものがあった。
「前と後ろがわからないなんて、バカみたい」と思うかもしれないが、実は西洋にも和式と同じくしゃがんで用を足す便器があり、それは後ろ向きになるのだ。
男子の小便は前向きだが、大の時は足場に足を乗せて後ろを向く。
こうすれば、便は直接穴の中へ落ちる。奈良の外国人観光客がこのタイプの西洋便器のことを知っていれば同じようにするし、知らなかったとしても、自分の排泄物を穴に落とそうと考えるのはむしろ自然だろう。
だから、前と後ろを間違えるのだ。
 
 
この古いタイプの西洋便器があるのは、ウルグアイはモンテビデオのアンデス通り沿いのバー。
とてもレトロな雰囲気なのだが、気取ってそうしているわけではなく、単純に店が古いというだけ。
ホルヘとは、もう20年くらいの付き合いになる。
 

 
 
夕方モンテビデオに着くと、すぐサッカー協会へ翌日のウルグアイ対ブラジルの取材証を取りに行った。
そして、その足でバーへ。
店に入ると、見慣れない男がカウンターの中にいる。
「マスターは」と訊くと、「俺がマスターだ」という。
なんでも、先代のマスターの息子なのだそうだ。
こうして時代とともに人は変わっても、店の造りとトイレは昔のままなのだ。
 
 
翌日、カガンチャ広場の前を歩いていると、一人の物乞いがいた。
脚が悪いらしく車椅子が近くにあるが、地面に座り、お金を入れてもらうための空き缶を前に置いている。
南米の多くの国では福祉に対する行政が遅れており、援助を得られない障碍者がやむなく物乞いをしていることが多い。
 
 
しかしこの彼は、スマホを持っているのだ。
手に持ったスマホをずっと操作している。
ウルグアイは以前、南米のスイスと呼ばれる福祉国家だったので、今でも障碍者への援助が手厚いのだろうか。
しかし、それならなぜ物乞いをしているのか。
本気でお金を得ようとしているなら、本人にとって不利なことだ。
気になったので何度も近くを通ったが、バス停前で人通りが多いにもかかわらず、誰もお金をあげていなかった。
こういう人がスマホを持ってはいけない、などという差別的な意味はさらさらないが、非常に印象に残る出来事だったので記しておく。
 
 
2月上旬に受けた痔の手術の影響はまだ残っていた。
とにかく、激しい便意が突然来るのだ。
そして切除した肛門はまだ肉が完全に盛り上がっておらず、穴をギュッと閉めても隙間ができる。
ということで、毎朝の定期便でも、ちょっとした粗相を何度かやらかしている。
時差というのは便意にも影響し、着いて数日は、朝の定期便が現地の夜にやってくる。
ホルヘは、これに怯えていた。
 
 
試合中に便意が来たらどうしよう。
これが今回の最大の心配事だった。
家のトイレですら間に合わずに粗相してしまうのだ。
広大なセンテナリオスタジアムで無事に済むわけがない。
最悪の場合に備えてオムツ的なものを着用することにしているが、そのお世話になるのは避けたい。
 
 
そこで重めの昼食をガッツリ食べて、事前に出してしまう作戦を決行した。
選んだ食事はウルグアイ名物のチビート。
これはハンバーガーの豪華版のようなもので、以前食べたときはそのボリュームに圧倒されたものだ。
しかし今回のチビートはやや期待外れ。
具材の種類、量ともたいしたことはない。
値段はちょうど10ドル。
これに飲み物とチップを足せば1500円ほどになる。
ウルグアイの物価はかなり高い。
 
 
貧弱なチビートではあったが、ポテトフライだけは山盛りで、その油っぽさが効いたのかホテルで無事に排便完了。
試合中も便意に襲われることはなく、パンツ、オムツとも無傷で取材を終えることができた。
 


About The Author

ホルヘ三村

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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