U-20W杯の日本対ウルグアイ戦で、ウルグアイの国歌ではなくチリの国歌が流されたが、これは国際大会ではよくあるミス。
しかしコパ・リベルタドーレスのサンタフェ対サントスで、かなり珍しいことが起きた。
それは、キックオフ前に行われた黙祷でのこと。「これより、サントスのリカルド・オリヴェイラ選手のご冥福を祈り、黙祷を行います。観客の皆様はご起立ください」とのアナウンスがされ、葬送行進曲が奏でられる中、型通りのセレモニーが行われた。
 
 
サントスのリカルド・オリヴェイラといえば、少し前までリーガ・エスパニョーラやブラジル代表で活躍していた選手。
「亡くなったの?」と思ったら、背番号9のユニホームを着てピッチに立っている。
本来は1960年代の名選手に対する黙祷だったが、アナウンサーがありえないミスをやらかしたのだった。
当のオリヴェイラはこのミスに全然気づかなかったそうで、神妙な顔で自分へ黙祷を捧げていた。
 
 
続いても黙祷の話。
日本ではあまり報道されていないようだが、ベネズエラ国内はずいぶんときな臭いことになっている。
原油価格下落に伴い経済状況が悪化し物資不足に陥った同国では、マドゥーロ大統領への批判の声が日に日に高まっている。
しかし政権側は強権を発動して反体制派のリーダーを捕えたり、改憲を画策するなどして対抗している。
そしてついには反体制派による大規模なデモが連日行われるようになり、これを鎮圧しようとした警官隊との衝突で40名が亡くなった。
これはもはや、鎮圧のレベルではない。
 
 
これほどの死者が出たにもかかわらず、サッカー協会とリーグ事務局は、その週末の試合で黙祷を行わないことを決めた。
犠牲者は反体制派なので、それに哀悼の意を示せば政府から睨まれることになりかねない。
さらに、政治的活動を禁止するFIFAの規則に抵触し、何らかの制裁を受ける可能性を心配したからだ。
 
 
しかし、選手会は違った。
「試合前の黙祷は行わない」というより「黙祷は禁止」という協会からの通達だったが、主審がキックオフの笛を吹くと、ボールをチョンと触り、そこからピッチ内の全選手が黙祷に入った。
これなら、試合前のセレモニーでなく試合中だ。
 
 
慌てたのは中継しているテレビ局。
禁止されているものを映してはならないと、その間はカメラをスタンドに向け、観客の様子を放映した局まであった。
 
 
この選手の行動は国民から称賛され、逆に協会は面目を失った。
そして協会は、「政治的な意味合いは一切ない」と断ったうえで、「犠牲者と遺族に哀悼の意を捧げる」と声明を出し、次節の1部と2部リーグの全試合で公式に黙祷を行った。
 
 
ベネズエラは今回のU-20W杯に参加している。
南米予選を3位で通過し、09年のUAE大会に続く2回目の出場だ。
ベネズエラといえば野球の国であり、サッカーは弱いというのがこれまでのイメージだった。
しかし今大会ではグループリーグを全勝で突破。
小国のバヌアツに7-0での大勝はともかく、ドイツに2-0、メキシコに1-0の快進撃。
監督のドゥダメルはアンチ・マドゥーロ大統領で、「我々はベネズエラの団結のために戦う」「この勝利を犠牲者の方たちに捧げる」など反体制派を励ますツイートを現地から多数発信している。
 
 
トーナメント1回戦で日本も破ったベネズエラ。
今大会では、母国を憂う強い思いが実力以上のものを引き出している。