最近アルゼンチンで、ディラン・レアレスという10歳のゴルファーがちょっとした話題になっている。
 
というのも、彼が住んでいるのはビジャと呼ばれるスラムだから。
 
スペイン語でビジャは別荘とか町の意味だが、アルゼンチンでは一般的に、
 
ビジャ・ミセリア(貧しい町)の略語として使われる。
 
 
 
ディランが住むのは、ブエノスアイレスのターミナル駅であるレティーロ駅の裏に広がるビジャ31。
 
広大な国有地に人々が勝手に住みはじめ、煉瓦とトタンで家を建てた。
 
現在はどうか知らないが、以前は無断で電線を引っ張ってきて、無料で使っていたそうだ。
 
むろん、犯罪者が多い。
 
 
 
ディランは8歳の時にゴルフチャンネルでゴルフを観て、その魅力にはまった。
 
おじいさんがほうきの柄でおもちゃのクラブを作ってやると、それで道に落ちているさまざまなものを打ち始めた。
 
周りからは、棒キチと呼ばれるようになったという。
 
 
 
そんなある日、おじいさんが彼をパレルモ公園に連れて行った。
 
目的は池で遊ぶ水鳥を孫に見せることだったが、ディランの目を釘付けにしたのは、池の前にあるゴルフ場だった。
 
初めて見る本物のゴルフ場に興奮し近づくと、「8歳から13歳までは、ゴルフレッスン無料」の看板を発見。
 
喜び勇んで受付に行ったが、「住まいはビジャ31」といった瞬間に断られてしまった。
 
このゴルフ場とスクールはゴルフ協会が運営しているもので、
 
子供への無料レッスンは将来のゴルフ人口を増やすのが目的。
 
つまり対象は、裕福な家の子供なのだ。
 
それでもあきらめず、レッスンプロに直訴したところ、「毎週土曜日に来い」と許可された。
 
 
 
しかし子供用のクラブセットを購入できず、大人用の中古品、
 
それもウッド、アイアン、パター各1本のみで練習をスタート。
 
それでも2か月でメキメキと上達し、大会に出ろといわれるまでになった。
 
 
 
ある日ゴルフ場に行くと、キャディが「おいディラン、あそこにいるのはボルギだ。サインもらってこいよ」といった。
 
ボルギはボカやチリ代表を率いた監督だが、ディランはそれを知らなかった。
 
キャディから偉大な監督だと教えてもらい、サインをもらいに行った。
 
するとボルギは、「以前、君のプレーをみたことがあるよ。そのクラブでは上手くなれないな」といい、
 
ディランをゴルフ場内のショップに連れていき、子供用セットをポンと買い与えた。
 
 
 
身体に合ったクラブのおかげでその後はさらに腕を上げ、昨年はナショナルカップで優勝。
 
今後はプロが出る大会にも参加するという。
 
将来の夢は、もちろんプロゴルファー。
 
ビジャの棒キチがいつの日か、オーガスタでプレーするかもしれない。


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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