伝説前夜の“伝説” 土屋 雅史 2013年5月10日 土屋雅史 世界中のサッカーファンが驚いたであろう、 マンチェスター・ユナイテッドを27シーズンにわたって率いていた アレックス・ファーガソン監督の退任。 もはや「いつまで続けるのか?」という疑問すら消え去り、 一生涯ユナイテッドのベンチに座り続けていることが 当然かのように考えていた私にとっても、 今回の発表には小さくない衝撃が走りました。 ファーガソン監督と言えば、 それがユナイテッドというクラブとイコールになるくらい長い時間を マンチェスターの地で過ごしてきたわけですが、 私は今から5年前に彼がユナイテッドの1つ前に指揮を執っていた クラブに「Foot!」の取材で訪れたことを思い出します。 そのクラブとは、スコットランドの古豪アバディーンFC。 グラスゴー、エジンバラに次ぐ スコットランド第3の都市として知られる港町にその居を構えたクラブへ、 やはりファーガソン監督のルーツを探る目的で突撃したのがその時でした。 1978年にアバディーンの指揮官へ就任したファーガソン監督は すぐさまレンジャーズとセルティックの2強へ割って入るチームを創り上げ、 3度のリーグ制覇と4度の国内カップ優勝、 1度のリーグカップ優勝を勝ち取るなど クラブを一気に強豪の位置まで押し上げる名将ぶりを発揮。 特に1982-83シーズンには UEFAカップウイナーズカップで決勝まで勝ち進むと、 レアル・マドリーを倒しての戴冠という偉業を達成。 欧州での名声を着々と築いていった先に、 ユナイテッドへの監督就任があったわけです。 また、ファーガソン監督の薫陶を受けた選手たちは 指導者としても一流揃い。 中村俊輔在籍時のセルティックを率いていた 現スコットランド代表監督のゴードン・ストラカン、 アバディーンにも監督として帰還を果たし、 現在はストラカンの下で代表のアシスタントコーチを務めるマーク・マッギー、 スコットランド代表やレンジャーズの監督を歴任したアレックス・マクリーシュなど 英国内でもその手腕を認められている監督たちが この港町の古豪から巣立っていきました。 ただ、“ポスト・ファーガソン”に悩まされたアバディーンは以降低迷。 リーグの中位が定位置となり、タイトルには長い間見放されています。 あるクラブ関係者は現状を表現するのに 「ここにはファギーの亡霊が漂っている」という言葉を使っていました。 マンチェスターでの反応はおそらく大々的に取り上げられるでしょうが、 個人的にはアバディーンの人々が 今回の一件をどう捉えているのかに興味があります。 伝説前夜に生まれた、もう1つの“伝説”。 アバディーンの人々は今、何を思うのでしょう。 写真はアバディーンのホームスタジアム、ピットドリーです。 Tweet