歌祭りと花束 ホルヘ三村 2013年9月20日 ホルヘ・ミム〜ラ IOC総会の少し前、ラプラタの日本人会々館で歌祭りがあった。 歌祭りといっても、実際は勝敗を競う歌合戦。 となると審査員が必要なわけで、ホルヘは今回もその大役を仰せつかった。 アルゼンチンの中にはいくつもの日本人会があり、個人戦と団体戦で争われる歌祭りに、 それらが精鋭を送り込んできた。その数70名以上。 まずは団体戦で、一度の小休憩を挟んでこの70余名が歌う。 歌の2番までで切り上げる演歌系の参加者もいるが、ほとんどがフルコーラスを熱唱。 審査員は、はっきりいって疲れる。 しかし彼らにとってこれは娯楽のカラオケではなく、練習を積み重ねてきた末の真剣勝負。 審査員も息を抜くわけにはいかない。 この70余名によるステージは、団体戦であると同時に個人戦の予選も兼ねている。 各参加者は審査員から点数をつけられ、団体戦は1チーム5名の総得点で順位を争う。 そして個人得点の上位15名が、個人戦の決勝へ進むシステム。 したがって歌唱は70余プラス15回行われ、午後5時半に始まった歌祭りが終わったのは午前1時だった。 団体戦(個人戦予選)と個人戦決勝の間には長めの休憩があり、審査員は別室で夕食をごちそうになる。 歌祭りには参加者だけでなく多くの観客も来るので、焼き鳥やウドンなどを作って売っている。 夕食は、それらと婦人部お手製の寿司やおにぎり。 ありがたいことに、ワインも用意されている。 まだ一仕事残っているが、ここでつい呑みすぎてしまうのが毎回のこと。 ラプラタの日系人は農業に従事している人が多く、花の栽培も行われている。 そして審査員へのお礼として、豪華な花束が贈られる。 しかしホルヘには、豚に真珠、猫に小判なのだ。なにしろ、家には花瓶すらない。 深夜ブエノスアイレスに戻ってから、女の子のいる呑み屋へ行ってプレゼントする、 ということは過去に何度かやってきた。 しかし、今回は懐が心細いのでまっすぐ帰宅。 さて、これをどうしようかと考えた末、マンションの管理人一家にあげることにした。 他にも候補者はいたが、翌日の昼間に花束を持って街を歩く姿を想像すると、恥ずかしいのでやめた。 翌日、花束を持って管理人室のブザーを押す。しかし不在のようだ。 こんなこともあろうかと、用意しておいたメッセージを付けてドアの前に置いた。 そこに知り合いのマンション住人が通りがかり、「きれいな花だ」と話しかけてきたので、 「花束を貰ったので、管理人にプレゼントするんだ」と伝えた。 夕方、管理人と会ったが、花束のことは何も言ってこない。 そこで心配になり、「ドアの前に花束あったでしょ」と訊いてみた。 すると、「いや、なかった」との応え。事の顛末を話すと、「誰かが持って行ったんだな」という。 どうやら、マンション内に花泥棒がいるらしい。 ところが、さにあらず。 ホルヘが花束を置くときに会った人が、「盗まれちゃいけないから」ということで預かっていてくれたのだった。 彼はマンションの住民組合の理事で、管理人にプレゼントするという行為を気に入り、 それが無にならないよう配慮してくれた。 そして管理人一家も、きれいな花束を貰って大喜び。 歌祭りのおかげで、ホルヘの株は大いに上がった。 Tweet