ヨーロッパのツアー旅行には、どこかの国まで飛行機で行き、
 
その後はバスで数カ国を回るものがあるらしい。
 
出発の2時間前までに郊外の飛行場へ何度も行かなくてすむので、結構便利だという。
 
しかし、ヨーロッパと違い南米は広い。
 
アルゼンチンのブエノスアイレスから、隣国ブラジルのリオデジャネイロまでバスだと40時間かかる。
 
 
 
W杯決勝戦の前々夜、レティーロ駅並びにあるバスターミナルは、リオへ向か合う乗客で満ちていた。
 
決勝戦を観戦する人たちだ。
 
といっても、彼らのほとんどが入場チケットを持っていない。
 
現地でPV観戦をするという。
 
ベロオリゾンテでのイラン戦をスタジアムで観たという女性は、
 
「そのときもバスだったから、今度も縁起を担いでバスで行く」といっていた。
 
 
 
バス利用は、もちろん飛行機より安いという点もあるが、
 
それよりもエアーチケットが手に入らないという事情がある。
 
アルゼンチン航空はリオまでの直行便を増便したものの、それでも追い付かない。
 
次に便利なウルグアイ経由もすぐ売り切れ、一度逆方向へ飛ぶチリやペルー経由や、
 
中にはアメリカのマイアミ経由で行った人もいるという。
 
ブエノスからマイアミまで13~4時間で、マイアミからリオまでも同じくらい。
 
日本から韓国へアメリカ経由で行くようなものだ。
 
 
 
決勝当日のアルゼンチンは、さながら民族大移動。
 
昼前からPVのある広場へゾロゾロとひたすら歩く。
 
ブエノスでは前々回書いたサンマルティン広場とセンテナリオ公園がPV会場となっていた。
 
ヌエベ・デ・フリオ大通りは、警察の規制がないのに、
 
人々が勝手に車道やバスレーンを我が物顔で歩いている。
 
国旗を背負ったりユニホームを着たり顔にペイントをした老若男女が、街を埋め尽くしている。
 
極端にいうと、街がスタジアムになったようだ。
 
 
 
路上では応援グッズの他、ネイマールの写真に「BRASIL CHAU」(ブラジル、バイバイ)
 
と書かれたポスターも売られていた。
 
アルゼンチン人は、ライバルより好成績になったことが嬉しくて仕方ないのだ。
 
 
 
こうして大移動が行われていたが、PV会場にもキャパはある。
 
とても全員は入れない。
 
そこで会場をあきらめた人たちは、前回書いたオベリスコを目的地とした。
 
ここにはPVはなく、ワンセグやラジオを持っている人も少ないが、そんなのお構いなし。
 
試合を観ることより、みんなでワイワイ騒ぐのが楽しいらしい。
 
 
 
今回のアルゼンチン代表のキャッチフレーズは、
 
No somos un equipo, somos un pais(我々はチームではなく国だ)で、
 
選手バスの側面にも書かれていた。
 
つまり、単なる代表チームではなく、国民と一体であることを意味している。
 
そして正にその通りに、アルゼンチンは一つになった。
 
 
 
試合後のオベリスコ周辺では暴動が発生したが、その模様は次回。
 
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About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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