毎年アルゼンチンに来るたびに、「ずいぶん物価が上がったな」と思うが、今年はそれがさらにひどい。これは政権交代が大きく影響している。クリスティーナ前大統領は、支持層である下層階級重視の政策を行い、さまざまな補助金や手当で税金をばら撒いた。しかし国家財政が苦しいうえ外貨が決定的に不足していたので、物価の上昇を招いた。しかしクリスティーナはインフレを認めず、政府の統計局は毎回でたらめな数字を発表してきた。
以前も書いたが、100ペソ札の価値は1000円札や10ドル札と大体同じ。そしてこの100ペソ札が、アルゼンチンで最も高額な紙幣なのだ。日本に当てはめると、1000円札以上の紙幣がないという状況。財布はパンパンになるし、商売人は札を数えるのが大変だ。高額紙幣を発行するとインフレを認めたことになるという理由で、100ペソ札以上の紙幣を作らなかった。
その後外貨不足はさらに深刻になり、海外旅行などの場合を除き、ドルの購入が禁止された。それでもペソ安は止まらず、ついに公定レートなるものを設定。これは、実際の価値よりペソを高く評価したもの。ようするに、インチキレートだ。これに対抗して闇レートが登場。闇の両替屋が、実勢相場で換金するようになった。例えば、公式レートは1ドル=9ペソで、闇だと1ドル=13ペソといった具合。
しかしマクリ新大統領が就任すると、公約通り公定レートを廃止。これでレートは統一され、1ドル=14ペソになった。これまで9ペソ換算で輸入していたものが14ペソになるのだから、当然物価は高騰する。それはマクリも覚悟の上。しかし少なくとも、インチキから正常に戻った。
公共料金も軒並み値上げされ、電気代が3倍になった家庭も多い。庶民の足である路線バスの運賃も、4月になってから倍になった。地下鉄も同様。ちなみに、ブエノスアイレス市内のコリエンテス大通りの下を走る地下鉄B線の車両は、丸ノ内線の中古だ。アルゼンチンでは交通費は本人負担なので、会社員への打撃は大きい。
1週間ほど前には、ホルヘも大打撃を受けた。タバコが27ペソから43ペソへ急上昇。値上げ分のほとんどが税金だ。スーパーで生鮮食品を見ても、日本より高いと感じる。こんなことはこれまでなかった。加工食品はともかく、肉や野菜は安かったのだ。まさに狂乱物価だ。
そんな中、テレビが壊れた。ブラウン管式の古いものなので、修理せずに買い替えることにした。そして買ったのは、LGの32型。値段は約5万6千円。日本なら4万円台で手に入るのではないだろうか。
配達してもらい、古いテレビを引き取ってもらおうとしたら、「引き取りはやっていない」との返事。これは困った。壊れたテレビをどうしよう。何インチか忘れたが、幅が70センチ以上ある大型で、一人では運ぶことができないから引き取ってもらおうとアテにしていた。マンションの管理人に相談すると、「道においておけば、カルトネーロが持って行くよ」という。カルトネーロとは、ゴミの中から売れるものを探して持って行くひとのこと。管理人に手伝ってもらいテレビを歩道に放置。すると翌朝には、跡形もなく消えていた。廃棄するのにも金がかかるが、アルゼンチンはタダ。この点では、アルゼンチンの方がお得だ。