先日リオオリンピックに臨む五輪日本代表チームのメンバーが発表されました。
ただでさえ18人という狭き門の上に、オーバーエイジで3人の選手が選出されたこともあって、純粋に23歳以下の選手は15人のみが選ばれるという過酷なメンバー争い。
当然手倉森誠監督も悩みに悩み抜いて選考したであろうことは言うまでもありませんが、その選から漏れた選手の悔しさや失望感は察して余りあるものがあります。
 
 
柏の中谷進之介は元々ユースからトップチームへ昇格する時に、当時の強化担当だった吉田達磨・現新潟監督から「まだプロでプレーするレベルには達していない」と言われた選手でした。
そのことを聞くと本人は「『ああ、そういう評価なんだ』とはもちろん思いましたけど、プロの世界は1回試合に出て活躍すれば、コロッと評価が変わるというか、『自分はできるんだぞ』という所を見せれば良いと思っています」と振り返ります。
1年目からネルシーニョ監督の下で出場機会を得た中谷は、なかなか試合に絡めなかった昨年を経て、今シーズンは完全に定位置を確保。
出場停止となった1試合を除くリーグ戦の全試合でスタメンを勝ち獲り、誰もが認めるディフェンスリーダーとしてチームを牽引してきました。
 
 
新潟の野津田岳人はこの4月に広島からの期限付き移籍を決断した選手です。
この五輪代表チームの立ち上げ時からコンスタントに招集はされていたものの、ケガこそあったとはいえ、浅野拓磨や茶島雄介の台頭に押される格好で、今シーズンは開幕からベンチ入りもままならない状況に。
「五輪に出たい」という気持ちは隠しようもなく、新天地へ移籍することになりました。
ところが新潟でも出場時間はなかなか伸びず、試合でアピールを重ねる機会が回ってきません。
僕が中継でビッグスワンを訪れた時にも、彼はメンバー外。
放送席の外にある通路で深刻そうに関係者と話し込んでいる姿が印象的でした。
 
 
FC東京の橋本拳人は今年に入って初めて五輪代表へ招集された選手です。
ユースから昇格したトップチームではまったく出場機会が回って来ず、2年目のシーズン途中で熊本へと期限付き移籍。
この地で本人が「こんなにサッカーが好きな人たちがいるのかと思った」と振り返る藤本主税(熊本U-15監督)、北嶋秀朗(新潟コーチ)、南雄太(横浜FC)のベテラン3人と触れ合いながら自らのサッカー観を確立し、火の国でその才能が開花。
復帰したFC東京でも昨シーズンの終盤にようやくスタメンで出場する機会も増加し、自分の中でも上を目指したいという意欲が湧き出てきます。
今シーズンは城福浩監督の下、右サイドバックやボランチ、インテリオールなど様々なポジションで標準以上のパフォーマンスを披露。
その活躍が手倉森監督の目に留まり、4月のキャンプで五輪代表初招集。
その指揮官も名指しで称賛するなど、一気にリオ行きが現実味を帯びて行きました。
 
 
高校時代からプレーを継続的に見てきたこともあって、この3人の代表選出を個人的には期待していましたが、残念ながら中谷と野津田はバックアップメンバーとなり、橋本は選外に。
結果的に彼らのリオへと続く扉は、その目前で閉ざされてしまう形となったのです。
 
 
7月13日、水曜日。
J1リーグセカンドステージ第3節。
中谷は柏の最終ラインで昨年王者の広島相手に奮闘。
3失点こそ喫したものの、局面でピーター・ウタカを抑え込むなど、いつも通りの安定したプレーを続け、野津田は等々力のピッチで強豪川崎を相手に今シーズン2度目のスタメンに抜擢されると、前半からフルスロットル。
得意の左足で先制弾を叩き込むなど、気持ちの入ったプレーを披露します。
さらに、橋本は本来のポジションであるボランチでスタメン出場。
前半にクロスバー直撃の強烈なミドルを放つと、後半には豪快な先制弾を記録。
チームは逆転負けを許しましたが、個人としてはストロングを十分に発揮していました。
この3人が揃いも揃ってこのタイミングで活躍するというのは、決して偶然には思えません。
大きな失望を経た彼らの、それでもしっかり前を向いて進んで行こうという意志が、それぞれのプレーから感じ取ることができました。
 
 
良く知られている話ではありますが、現在日本代表の最多キャップ数を誇っている遠藤保仁は、シドニーオリンピックでバックアップメンバーとしてスタンドからピッチを見つめ、ドイツワールドカップではフィールドプレーヤーの中で唯一出場機会のなかった経験を持つ選手です。
彼らのサッカー人生はこれからも続きます。
この経験を彼らが今後の自分へどう投影して、どういうプレーヤーへと成長していくかは、丁寧に見つめて行きたいなと思っています。