先週の火曜日に、一時帰国をしなければならなくなった。
そのため航空券の予約変更が必要となり、月曜日にエセイサ国際空港まで行ってきた。
サンマルティンの日という祭日なので街中のオフィスは休業。
そこで空港まで足を延ばしたのだった。
 
 
旅行のときは荷物が多いので、空港へはタクシーかレミス(ハイヤーみたいなもの)を利用するが、今回は手ぶらなので空港リムジンバスを使った。
MANUEL TIENDA DE LEONという会社がそのバスを運行しており、レティーロ駅の近くに乗り場がある。
片道220ペソ(約1540円)。
タクシーやレミスは空港への一律料金があり、これが650ペソ(約4550円)。
リムジンバスはもっとお得かと思っていたが、それほどでもなかった。
 
 
そこで、空港からの帰りは路線バスを利用することにした。
ターミナルの外れにポツンとバス停があり、数系統のバスが来る。
最寄りのモンテグランデ駅、エセイサ駅行きは頻繁に発着するが、ブエノスアイレス市のボカ行きの8番路線はかなり少ない。
最寄り駅から鉄道に乗り継ぎ市内のコンスティトゥシオン駅まで行く手もあるが、乗り換えが面倒だし電車賃も節約したいので8番を待った。
小1時間ほどで8番が到着。
料金は市内まで7ペソ(約49円)。
この日は祭日のため2時間でセントロへ着いたが、平日だと2時間半から3時間はかかる。
 
 
このバスの乗客に、ベネズエラ国旗をモチーフにした旅行バッグとスポーツウェアに身を固めた若者がいた。
ホルヘの前に座っていた彼は、「パレルモにはどうやって行くのか」など、市内のことを聞いてきた。
それがきっかけで話をするうちに、彼が空手のベネズエラ代表だということがわかった。
ブエノスアイレスで開催される、21歳以下のパンアメリカン大会に参加するのだという。
パンアメリカン大会とは北中米カリブ諸国が参加するもので、南米大会より格が上だ。
 
 
長い道中なので乗客は次々と入れ替わる。
ウェアが目立つせいか彼は数人から話しかけられていたが、その全員が口にしたのは、「ベネズエラは今、大変でしょう」という言葉。
原油価格の下落で経済が困窮しているベネズエラでは、市民の怒りが反政府運動につながった。
しかしマドゥーロ大統領は強権を発動してこれに対抗し120名以上の死者がでている。
21歳以下の大会とはいえ、代表選手が空港から路線バスに揺られなければならないのも、同国の経済状況が影響しているのかもしれない。
彼の名前も参加種目も聞き忘れたが、後日ネットでパンアメリカン大会の結果を見ると、型の部ではベネズエラ人同士が決勝で争いガルシアがペレスを下して優勝している。
このどちらかが、彼である可能性は高い。
 
 
ちなみにベネズエラの問題は、アルゼンチンの二大スターの関係にも影響を及ぼした。
キューバ革命の英雄であるチェ・ゲバラのタトゥーを腕に入れ、亡くなったキューバのカストロ前議長を尊敬し親交があったマラドーナ。
彼は同じくカストロ信奉者であるベネズエラのチャベス元大統領とも関係が深かった。
現大統領のマドゥーロは、病で亡くなったチャベスの直系。
そのためマラドーナは、SNSでマドゥーロを応援するメッセージを発信した。
 
 
これに真っ向から噛みついたのは、1978年W杯優勝の立役者ケンペス。
大勢の命を奪ったマドゥーロを支持するとはなにごとか、と反論した。
彼の奥さんはベネズエラ人で、親せきや知人を通じて同国の悲惨な事情を聞いている。
それだけに、友人感覚で無責任にマドゥーロを持ち上げるマラドーナが許せなかったようだ。
 
 
そしてベネズエラ問題はサッカーの世界にも波及。
31日のW杯予選でコロンビアはアウェイでベネズエラと対戦する。
通常なら飛行機で行くところだが、ベネズエラの国内情勢の悪化やデモの多発でメンテナンスを含む飛行の安全が確保できないとして、コロンビアのAVIANCA航空がベネズエラ便の運航をとりやめた。
そのためコロンビア代表は、バスの長旅で会場入りするはめになってしまった。


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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