連日世間を騒がせている日大フェニックスのグランドは、ホルヘの実家から割と近い。
中学生になると、そのあたりは遊びのテリトリー内に入っていた。
道路に面したグランドの壁は高いのだが、ガードレールの上に立つと中が覗けた。
しばらくそうしていると部員がやってきて、「見ないでください」と追い払われた。
 
 
その少し前には、当時阿佐ヶ谷にあった花籠部屋と二子山部屋の稽古を見に行っていたので、「練習を見せないとは、おかしなスポーツだ」とか「ケチなクラブだ」と思ったものだ。
フォーメーションが重要で、それを秘密裏に練習しているというのは、かなり後になってから知った。
それでもヘルメットとプロテクターを着けた姿が興味深く、近くを通るたびにガードレールに登り、怒られない程度に見学していた。
 
 
そんな少年時代を送ったので、フェニックスには勝手に親しみを持っていた。
それだけに今回の騒動は、NHKとネットニュースでチェックしている。
 
 
故意の反則を犯した選手の会見の翌日に行われた、前監督とコーチの会見、あれはひどかった。
アメフトというのは頭脳が必要なスポーツなのだが、そうしたものがまるで欠如しているのに驚いた。
 
 
「潰せとは指示したが、ケガをさせろはいっていない」と繰り返したコーチは、「この人、頭悪そうだな」と感じさせるような話し方だった。
しかしそれは、嘘をつきとおすというプレッシャーからそうなったと思える。
問題なのはシナリオの作り方だ。
 
 
フェニックスの上層部でだけで行われたか、日大の広報部も加わったか知らないが、会見の前に十分な話し合いが行われ、シナリオ作りと想定問答が行われたはずだ。
そして、監督は助ける、という結論に至った。
コーチが防波堤となり、「ケガをさせろという指示はしていない」で乗り切ろうとした。
 
 
監督を庇ってコーチが指示したという線で押すのなら、「私がケガをさせろと指示しました」とまでいわせるべきだった。
あのコーチは高校時代から当該選手を指導している。
しかも選手は日本代表にも呼ばれる逸材で、コーチにとっては秘蔵っ子だ。
ところが最近は監督からの信頼を失い、練習にも参加させてもらえない。
再び信頼を得るには、明らかな闘争心を監督に示さなければならない。
そのための手段として、相手選手にケガをさせる。
つまりコーチは、秘蔵っ子を助けるために親心から「ケガをさせろ」という言葉を使ってしまった。
このことを会見で話し、「しかし、本当にケガをさせてしまうとは思っていませんでした」と涙の一つも見せれば、納得する人は多かったと思う。
 
 
どうせコーチを辞任するのなら、ここまで引っ被っても大差はあるまい。
「親心」という動機が世間の同情を誘う。
さらにコーチがこの選手を可愛がっていたのは事実であろうから、「親心で指示したんだ」と思い込むことが可能で、それにより会見での話し方に不自然さがなくなる。
 
 
もう一つ、ホルヘがかねてから疑問に思っている矛盾点を前面に出し、「ケガをさせろ」という指示はありえないことを説明する方法もあったと思う。
反則を命じられた選手は、「ファーストプレーでケガさせてこい」といわれたと語っている。
ここがどうも納得できないのだ。
 
 
相手のレギュラーQBにケガを負わせて、秋の公式戦に出場できないようにするという陰湿な作戦を本当に行うのなら、なにもファーストプレーである必要はない。
試合中、ケガをさせるチャンスはいくらでも巡ってくる。
それなのにファーストプレーで潰しに行ったため、タイミングがズレズレのありえないタックルになった。
たしかに遅れたタックルはケガをさせるのに有効だが、あれほど遅れたことが、故意の反則だという疑惑を招いたのだ。
 
 
したがって、ケガをさせるという作戦が存在したとしても、「ファーストプレー」と「ケガをさせる」の両立はありえない。
そんな指示を出すわけがない。
「試合開始からガンガン行け」という意味で、「ファーストプレーからQBを潰せ」といったに過ぎない、と訴えてもよかったと思う。
 
 
そのうえで、「選手にプレッシャーを与えすぎ、『本当にケガをさせなければ』と思うまで追い込んでしまった。大変申し訳ありませんでした」とまとめても、まあまあ格好はつく。
 
 
今回のことで地に落ちた名門フェニックスだが、その名の通り、不死鳥のごとく蘇って欲しい。


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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