新年早々、熊本で震度6弱の地震があった。
2016年の大地震とは関係なく別のプレートが原因だというから、改めて日本が地震多発国であることを思い知った。
 
 
昨年の11月30日、テレビでG20の生中継を観ていたら、微弱ながらズンという突き上げ感があった。
すぐに、「これは地震だ」と気づいたが、ブエノスアイレスでホルヘが地震を体感したのはこれが初めてだった。
アルゼンチンでは、アンデス山脈近辺は地震が多く過去に大きな被害も出しているものの、平野部分が揺れることはめったにない。
数年前、アンデス方面での少し大きめの地震によりブエノスアイレスの高層ビル上階で揺れを感じたということがニュースになったほど珍しいことなのだ。
 
 
テレビ局には視聴者から、「爆発のような衝撃があった」とか「車が壁に突っ込んだと思った」などの投稿が相次いだ。
経験がないので、地震だと気づかない人が多いのだ。
テレビ局はさすがに地震を疑い、気象庁の担当者に生で電話インタビュー。
担当者は地震があったことは即答したものの、震源地や規模については、「詳細がわかるまで15分から20分かかる」と語った。
日本なら1分以内にテレビで地震速報がでるのに、ずいぶんと悠長な話だ。
もっとも、めったに起こらない自然現象のために予算をつぎ込む必要はない。
 
 
結局地震の震源は、市内から南へ約30キロメートルで深さは約10キロメートル、マグニチュードは3.2だった。
直下型だったので、揺れではなくズンという衝撃を感じたのだった。
アンデス地方の揺れが伝わったのではなくブエノスが震源というのは、おそらく数10年振り、あるいはそれ以上だろう。
その奇跡のようなものが、G20開催中に起きたのだ。
 
 
東京五輪や大阪万博といった長期間の世界的ビッグイベントの最中に大地震が起きる確率は、今回のブエノス地震よりはるかに高いはずだ。
昨年9月には、日本代表対チリ代表の試合が北海道大地震で中止になった。
人的災害が出る震災までいかなくとも、大きな揺れが襲っただけでパニックなる外国人もいる。
地震と縁のない国に住んでいる人にとって、大地とは不変不動のものだ。
太陽は昇り沈む。
月は満ち欠けがある。
大気は動いて風となり、季節は移ろう。
しかし、大地は何があっても変わらない。
地震慣れした我々には理解できないが、「大地は不動」がDNAに刷り込まれた人々にとって、地面が揺れるのはありえないことなのだ。
東京五輪中に大きな揺れがあれば、「怖いから帰る」という選手団があってもおかしくない。
 
 
日本がW杯や五輪、万博の招致を行う場合、大きなウィークポイントとなるのが地震国であること。
表立っての批判は禁じられているが、対立候補は裏へ回ってこの危険性を膨らませて吹聴し、日本票の切り崩しを図る。
そのハンディを乗り越えて招致に成功したのは、治安の良さや親切な国民性を武器にしたから。
東京五輪の最終プレゼンで安倍総理は、「落とした財布が持ち主に戻る国が日本です」と訴えた。
 

 
 
ホルヘの知人であるチリ人カメラマンが日本の電車内でカバンを置き忘れたが、それが戻ってきて感激していた。
もちろんすべてが戻ってくるわけではないが、その確率は世界的に見ると驚異的だ。
ホルヘは小学生1,2年生のころ、「落とし物を拾ったら、交番に届ける」ということを学校で教わった。
他人様のものを拾ったらお役人に届けるというのは、江戸時代でも当然のことだったようだ。
届けずに自分のものにすることをネコババというが、そのような言葉があること自体、届けるのが当然で届けないのは悪というのが決まりだからだ。
英語には着服や横領といった言葉はあるが、ネコババのニュアンスに合う言葉はない。
「あいつはネコババした」というのは、「He pocketed the money」(彼は金をポケットに入れた)というらしい。
 
 
アルゼンチンを例にとると、まず警察が信用されていない。
落し物を届けても、それは警官が着服すると思われている。
したがって、誰も届けない。
となると、拾得物は自然と自分のものになる。
もちろん、「落とし物は警察に届けなさい」などと学校で教えない。
拾った者勝ちである。
 
 
数か月前、10歳くらいの少年が大金の入った財布だかカバンを拾った。
彼は中身から持ち主の住所を見つけ、自転車でそこまで行って拾得物を返した。
素晴らしい善行だ、ということになり、市長や警察署長が表彰して新しい自転車やサッカーボールなどをプレゼント。
そしてこれが大きなニュースとなった。
ネコババが当然の国では、落とし物を届けただけで大騒ぎになるのだ。


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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