ホルヘのコパ・アメリカ初体験は、1989年のブラジル大会だった。
その次の91年チリ大会へは行かなかったが、93年のエクアドル大会以降、95年ウルグアイ大会、97年ボリビア大会、99年パラグアイ大会、2001年コロンビア大会、04年ペルー大会、07年ベネズエラ大会、11年アルゼンチン大会、15年チリ大会を連続取材。
南米全10か国での開催を制覇した。
 
 
初コパ・アメリカから30年の今年、再び開催地はブラジルとなった。
先ごろブラジルサッカー連盟は、今大会用のユニホームを発表した。
89年の優勝にあやかった同じデザインの復刻版で襟がついている。
通常、サブユニホームは青だが、今回は白。
1950年のW杯自国開催決勝で、ブラジルはウルグアイに1-2で敗れて自殺者やショック死者を出した。
有名な「マラカナンの悲劇」だ。
このとき着用していたのが白のユニホーム。
それ以来ブラジル代表は白を忌み嫌って使用していなかったが、長年の呪縛を破ろうと勇気ある決断を下した。
個人的には、メインが黄色のコロンビアかエクアドル戦で白を着て負けてもらいたい。
ブラジルに恨みはないが、「白の呪い」というようなミステリアスなものが続いてほしいのだ。 
 
 
今大会には日本代表も参加する。
しかし、ホルヘは行かないつもりだ。
代表の取材で日本から報道陣が大勢やってくる。
大きなメディアは記者やカメラマンを送り込んでくるし、フリーの人間も代表の試合となれば付いてくる。
となると、ホルヘは取材をしても売り先がない。
若いときは収支を度外視していたが、還暦近くなると計算高くなる。
経費倒れになるのが明らかなので、浪費をせず老後に備えることにした。
 
 
コパ・アメリカは、この30年でかなり変わった。
89年は南米の10か国だけだったが、93年から2か国が招待されるようになった。
そして回を重ねるごとに人気は高まりグレードがアップ。
チケット代も高価となり、それでも入手が難しい状況となっている。
 
 
以前のコパ・アメリカは素朴でのんびりとした大会だった。
地元チームの試合以外は、スタンドが半分も埋まらないことは珍しくない。選手が宿泊しているホテルへの立ち入りも普通にできた。
 
 
93年のエクアドル大会でのこと。
キックオフ前に我々カメラマンは、集合写真を撮るためタッチライン中央で待機していた。
選手は我々の後方から入場してくるので、横に広がりすぎると入場の邪魔になる。
そのため、カメラマンをコントロールする係員がいた。
その係員が毛色の違うホルヘに気づき、「どこから来た」と話しかけてきた。
実に気さくな人だった。
彼とは行く先々のスタジアムで会い、「右端はそこの日本人まで」などとホルヘが列を整える基準に使われたりした。
 
 
その彼は60歳ほどの年齢で、あとでわかったことだが、CONMEBOL(南米サッカー連盟)の広報部長にして副会長の一人だった。
それほどの役職の人が、現場でカメラマンを仕切っていたのだ。
CONMEBOLは非常に質素な組織だった。
この人物はウルグアイ人のフィゲレドで、後に同国サッカー協会の会長になりCONMEBOLの会長にも就任。
そしてFIFAスキャンダルで逮捕され有罪判決を受けた。
素朴で質素だった南米サッカーが、発展することで利権と犯罪にまみれてしまった。
 
 
そして、コパ・アメリカはまた変わる。
なんと来年も開催されるのだ。
しかも、開催国はアルゼンチンとコロンビアの2か国。
コロンビアが北ブロックで、ブラジル、ベネズエラ、エクアドル、ペルーが入り、アルゼンチンの南ブロックにはチリ、ウルグアイ、パラグアイ、ボリビア、そして両ブロックに招待国1か国が加わる。
各ブロックで6か国総当たりリーグを行い、上位4か国がトーナメントのベスト8に進出するというものだ。
 
 
今年に続けて来年行うのは、ユーロカップに合わせるため。
欧州各国のリーグはユーロカップを考慮してスケジュールを作るので、同じ年に開催したほうが選手を招集しやすい。
それは納得できるのだが、なぜ2か国共催なのか。
これはおそらく、2030年のW杯招致と関係あるのだろう。
南米はウルグアイ、アルゼンチン、パラグアイ、チリの4か国共催で名乗りを上げている(ボリビアも参加に意欲を示している)。
強力なライバルは、英国4協会の共催。
その中のイングランドは、サッカー発祥の地ということで協会名にイングランドを入れず、FA(Football Association)とだけ名乗っている。
しかしこれには、世界を統括するFIFAより偉そうで傲慢だ、という批判もあった。
そしてこの度、FAが長年の伝統を排して名称にイングランドを入れるのでは、という噂が流れた。
これが事実なら、W杯招致にも影響を与えそうだ。
 
 
100周年大会を第1回大会開催国のウルグアイで行うということを錦の御旗としていた南米勢だが、FAの改名でそれもかすんでしまう。
こうなっては共催の実績でアピールするしかなく、あえて隣接国でないアルゼンチンとコロンビアで行うようにしたのではないのだろうか。


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

Related Posts