開幕したラグビーW杯。
アルゼンチン代表は初戦でフランスと激突し21対23で惜敗。
白星スタートとはいかなかったが熱戦を展開した。
 
 
アルゼンチンではサッカーとラグビーが階層によってはっきり分かれている。
サッカーは庶民のスポーツで、ラグビーは上流階級のものだ。
以前、日本代表が来た時に取材でついてきたメディアの人が、「ラグビーをやる子供は、みんな英語が話せる」と驚いていた。
ラグビークラブに入っている子たちは、いいとこのボンボンなのだ。
最近はこの垣根も多少は低くなっているようだが、ラグビーは上流階級の愛好者と支持者によって成り立っている。
 
 
この傾向はほかの国にもあるようだ。
なにしろ発祥の国イギリスでも、「サッカーは野蛮人が行う紳士のスポーツ。ラグビーは紳士が行う野蛮人のスポーツ」といわれているそうだ。
紳士とはすなわち上流階級の人。
日頃は気取っている彼らが、野蛮人のようにぶつかり合い泥んこになる。
このギャップが紳士たちにはたまらないのだろう。
 
 
その点日本では、落ちこぼれの吹き溜まりみたいな高校に入っても、そこにラグビー部があって入部すればラガーマンになれる。
家が貧しかろうがラグビーを楽しむことができる。
最近は「部活制度の弊害」といったことを見聞きするが、部活制度にはこうした利点もある。
 
 
ラグビーのアルゼンチン代表の愛称はLos Pumas(ロス・プーマス)。
英語ならThe Pumasだ。
英語の定冠詞はなんでもTheだが、スペイン語は男性形・女性形、単数形・複数形で異なる。
この場合は男性形の複数なのでLosとなる。
ちなみに女子代表の愛称はLas Pumas(ラス・プーマス)だ。
 
 
プーマスの語源は、エンブレムに描かれている動物に由来する。
しかし実はこれ、Puma(ピューマ)ではない。
アルゼンチンでジャカレテーと呼ばれるジャガー(またはオンサ)のこと。
大昔に外国で試合をしたときに、ジャカレテーが現地の人にうまく伝わらず、ピューマと思われThe Pumasと紹介されたことからそれが定着したそうだ。
 
 
今年の7月、ラグビーW杯でロス・プーマスの通訳をするという日本人青年に会った。
詳しい経緯は知らないが、大会組織委員会に直談判して通訳になったらしい。
そこでアルゼンチンのスペイン語を学ぶため、仕事を辞めて1か月間現地を訪れていた。
共通の知人がいたため、彼と連絡を取って帰国直前に会う運びとなった。
 
 
彼は仕事で長期スペイン語圏にいて言葉はマスターしているが、アルゼンチンのスペイン語は独特なので、それに対応するためやってきた。
語学教育の最高峰である東京外国語大学は入るのも難しければ授業も大変難しく、そこを卒業すれば通訳並みのスキルが身に着くといわれている。
しかしここの大学4年生がアルバイトでアルゼンチン人の通訳をしたら、チンプンカンプンなことばかりだった、という話を聞いたことがある。
 
 
スペイン語の二人称は英語のようにYou一種類でなく、UstedとTúがある。
Ustedは「あなた」で、Túは「君」や「おまえ」。
Ustedはフォーマルで、Túは近しい関係の際に用いられる。
しかしアルゼンチンではTúが使われず、そのかわりにVosが用いられる。
おまけに初対面でもフォーマルなUstedでなく、いきなりVosで話すことが多い。
タクシーの運転手も平気でVosを使う。
コロンビアのタクシーとは大違い。
あちらでは日本のように、「どちらまでまいりましょう」「かしこまりました」と対応するが、アルゼンチンではいきなり馴れ馴れしい。
 
 
さらにスペイン語は主語によって動詞が変化するが、その変化がTúとVosで違うのだ。
英語のBe動詞、「君は~」の「は」にあたる動詞の原形はSerだが、これがTúでは「Eres」でVosでは「Sos」となる。
また普通のスペイン語圏では「貝」という意味で広く使われるConcha(コンチャ)も、アルゼンチンでは女性器を指すので禁句。
動詞のCoger(コヘール)は他国では「拾う」という意味で使われているが、アルゼンチンでは性交のこと。
以前ホルヘが警官に、「タクシーを拾いたいんだけど、どこに行けばいい」とCogerを使って質問したら大笑いされた。
「タクシーを拾いたい」が「タクシーと姦りたい」という意味になってしまったのだ。
 
 
このような違いに慣れるため件の青年はやってきたのだが、アルゼンチンのラグビー選手がみんな英語を喋れるのなら、英語の通訳をつけたほうが手っ取り早かったのではないだろうか。

※写真はイメージです。


About The Author

ホルヘ三村

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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