新型コロナの感染者が南米で初めて確認されたのは、2月26日のブラジルだった。
イタリアから帰国した男性が、南米の陽性第1号。
2番目はエクアドルの女性で、こちらはスペイン帰りだった。
そして3月8日に、アルゼンチンで南米初の死者が出た。
フランスに滞在していた、65歳で糖尿病の疾患をもつ男性が亡くなった。
しかしこの時点では、アルゼンチンはまだ落ち着いていた。
南米で最もコロナに対して敏感だったのはチリ。
いち早く、イタリアとスペインからの入国者に対して2週間の隔離措置をとることを決めた。
 
 
3月26日と31日にW杯南米予選の第1節と2節が組まれており、この隔離措置によってチリ代表はイタリアとスペインでプレーしている主力選手たちを実質的に召集できなくなった。
またペルー代表も、期待のFWカリージョを呼べなくなった。
これはペルー政府の決定とは関係なく、カリージョが所属するのがサウジアラビアのアル・ヒラルだから。
サウジはコロナが国内に入らないよう、欧州との航空便を停止した。
このため彼は通常のルートでペルーへ戻れなくなったのだ。
複雑なルートを経れば帰国することは可能ながら、強硬な防御措置を講じたサウジなので、今度は予選終了後に入国できなくなるかもしれない。
悩んだ末にガレッカ監督は、この召集を見送った。
南米初の死者を出したアルゼンチンは、この時点ではこうした報道を他人事として面白がっていた。
 
 
日本ではWHO事務局長の評判がよろしくない。
中国に操られているような発言が多く信用できない感じがする。
彼の映像やコメントはニュースやワイドショーで何度も流され、コメンテーターらがしばしばそれを批判するので、なんとなく、能無しというイメージがついてしまった。
しかしこれまでの彼の映像をほとんど見ていない大多数の国の人々にとって、WHOという組織の権威は高い。
パンデミック宣言は世界的な危機と受け取られ、各国が素早く反応した。
のん気だったアルゼンチンは、感染率の高い国からの入国者を2週間隔離すると発表。
その中には、日本も含まれている。
ホルヘは4月2日までにアルゼンチンへ行く予定なので、隔離対象となる。
日本も韓国と中国からの入国者に対し同様の措置をとっているが、要請であって強制力はないとか。
したがって規制はザルだといわれている。
しかしアルゼンチンの場合は命令であり、違反した者には3年から15年の禁固刑が科せられるのだ。
自宅のあるものは家にこもっていればいいのだそうだが、食料品などの買い物には行けるのだろうか、銀行はどうだろうか、と隔離措置への対策を講じるため在日本アルゼンチン大使館へ問い合わせようと思っていた。
するとトランプが欧州との航空便停止を発表。
アルゼンチンもすぐさまこれにならい、欧州に加えアメリカとの便を1か月止めてしまった。
これにより、ホルヘの渡航も延期が確定した。
 
 
欧州からの便が止まれば、アルゼンチン代表も選手を集められない。
他の国も同様の措置を講じているので、事情はどこの代表も一緒だ。
そこでCONMEBOLは、W杯予選の主催者であるFIFAに要望書を送り、「延期」の回答を得た。
さらに開催中のコパ・リベルタドーレスおよび女子のU-20南米選手権の中断も決定した。
12日にはコパ・リベルタドーレスのリーベル対ビナシオナルの試合が行われ、ホームのリーベルが8-0の爆勝。
この試合、スタンドは無人だった。
コロナ対策の無観客試合かと思いきや、ペナルティによるものだった。
南米ではサポーターの乱闘などでクラブが責任を負わされ、無観客試合のペナルティを受けることが多い。
したがって慣れているともいえる。
 
 
ペルーリーグとウルグアイリーグは当面の試合中止を決めたが、13日から開幕のアルゼンチン・スーペルリーガは、政府、協会、リーグ事務局、選手組合の会議で無観客試合での開催が決定した。
金曜日の開幕戦はヒムナシア対バンフィル。
両チームの監督、マラドーナとファルシオーニは、「なんで慌てて開幕する必要があるんだ。落ち着くまで待てばいいじゃないか」と口を揃えて不満をぶつけながら試合に挑んだ。
するとこの試合の後半が行われている時刻、翌日の土曜日に試合が組まれていたリーベルが記者会見を行い、「明日の試合には行かない」と、試合ボイコットの爆弾発言を行った。
実はリーベルには、陰性か陽性か結果が出ていないながら体調を崩した選手が1名おり、もし彼が陽性なら他にも感染している可能性がある。
選手、スタッフおよびすべてのクラブ関係者の安全を考え、ユースを含めすべての試合への参加を取りやめるという決断を下した。
リーグ側は、規定に従ってペナルティを科す考えだという。
 
 
今年はコロンビアとアルゼンチンを会場に、初の2か国開催のコパ・アメリカが6月に行われる。
しかしコロンビアのスポーツ大臣は、「状況によっては延期すべきだ」とCONMEBOLに進言した。
開催国側が、安全を最優先に考えて主催者に意見を具申。
大会規模と影響力の違いは比較できないものの、「開催強硬」で突き進んでいる東京五輪とはえらい違いだ。
 
 
最後に、元ブラジル代表ロナウジーニョの近況報告。
兄とともに偽造パスポートでパラグアイに入国して逮捕されたロナウジーニョ。
現在は刑務所に入っていて、保釈が認められなければ、裁判の手続き次第で最長6か月もここにいなければならない。
とはいえパラグアイの刑務所は日本のそれほど厳しくなく、自由やお楽しみも多い。
半年に1度はフットサルの大会が開かれ、今がまさにその直前。
優勝賞品である16キロのブタ1頭を目指し、各チームはロナウジーニョをメンバーにしようと獲得合戦を繰り広げているが、いずれもスネに傷持つ犯罪者。
穏便な話し合いとはいかず、暴力沙汰も起きているとか。
しかしそんな彼らも、すでに一つのことでは合意しているという。
それは、ロナウジーニョの得点は認めない、というものだ。


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ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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