アンデス山脈に面したアルゼンチンのラ・リオハ、サン・フアン、メンドーサの3州は、クージョ地方と呼ばれる。
クージョは、スペイン語の関係形容詞と同じ言葉。
他の地方はノロエステ(北西)のように方角を示すものや、チャコやパタゴニアといった地名に由来するものが多い。
かねてから、アンデス沿いをなぜ関係形容詞と同じクージョと呼ぶのか疑問に思い、ブエノスアイレスでいろいろな人に訊いたが、誰も知らなかった。
その疑問が、今回のメンドーサ行きで解決した。
土地の人によると、クージョとは先住民の言葉で「乾いた土地」という意味だそうだ。
雨が少なく、土地はカラカラに乾いている。
しかし、水が無いわけではない。
アンデスの雪解け水が山にしみ込み、その後は良質な湧水となる。
アルゼンチンで販売されているミネラルウォーターは、ほとんどがこの地方のものだ。
ただ、水が湧く場所は限られている。
生活や農業に使うためには、湧水を引っ張ってこなければならない。
メンドーサの名物のひとつが、道の脇に流れている用水路。
これはスペインによる侵略以前、先住民によって造られた。
同じようなものはペルーにもある。昔の人の知恵や技術はたいしたものだ。
ホルヘが泊まったユースホステルは、部屋への酒の持ち込みが禁止だった。
しかしワインの産地なので、酒を呑む店には事欠かないと思っていた。
数種類のワインをショットで呑めるようなカウンターバーもあると勝手に想像していた。
しかし相当探したにもかかわらず、そのような店がない。
レストランやカフェ、アイスクリーム屋ばかりなのだ。
しかしアル中のホルヘとしては、呑まないわけにはいかない。
結局、レストランでボトル1本とポテトフライ、さらにピカーダというツマミを頼んだ。
ピカーダとは、ハム、チーズ、オリーブの盛り合わせ。
あくまでもツマミや前菜的なものなので、通常は大した量ではない。
しかし、ここのピカーダはてんこ盛り。3~4人前分はある。
この店は、1人客を想定していないのだろう。これは、もはやツマミでなく立派な食事だ。
ホルヘは酔うために酒を呑むので、腹が一杯になるのは都合悪い。
それなら適量だけ食べればいいのだが、貧乏性なのか、食べ物を残すことに罪悪感がある。
したがって詰め込むようにワインとツマミを呑みこむこととなり、メンドーサでは気持ちよく酔うことができなかった。