今、日本のボクシングが凄い。
 
8人もの日本人世界チャンピオンがいる。
 
1人の王者もいなくて、「世界戦○連敗」などという時代からすると信じられないことだ。
 
 
 
ホルヘも以前、ボクシングを撮影したことがある。
 
6日に防衛に成功した内山選手と田口選手が所属する、ワタナベジムの選手らを取材していた。
 
上記の両者に加えて河野選手と3人の世界チャンプを抱える同ジムだが、当時は東洋太平洋王者が最高位だった。
 
 
 
初めて撮影したフィルムを現像してみると、パンチが当たっているシーンが1枚もない。
 
ちゃんとそのタイミングでシャッターを切っているのに、新聞に載るようなかっこいい写真が撮れていないのだ。
 
ボクシングでは殴りっぱなしだと相手のパンチを受けてしまうので、打ったらすぐに拳を戻す。
 
その速さが尋常でなく、パンチが当たってからシャッターを押すと、
 
実際に写真が撮られたときは、すでに拳が引かれてしまっている。
 
 
 
当たってから撮るのでは遅い、ということに気がついたので、
 
2回目の撮影では、パンチを打つ瞬間に反応することにした。
 
漫画の「がんばれ元気」に、相手の肩がピクッと動くことでパンチを予測する、
 
ということが描いてあったことを思い出し、ピクッの動きにも注意を払った。
 
 
 
しかしボクシングには牽制のための軽いジャブというのが多いうえ、打つ振りで相手を惑わすフェイントもある。
 
ホルヘはすべてのフェイントに引っかかり、軽いジャブのたびにもシャッターを押し、
 
たちまちフィルムがなくなってしまった。
 
今はデジカメで無尽蔵に連写できるが、当時のボクシング撮影は未経験者には大変だった。
 
 
 
カメラマンはリングサイドに位置し、リングに肘をついて、いわゆる「かぶりつき」の姿勢で撮影する。
 
選手の身体は、汗やセコンドがかける水で濡れている。
 
眼の前で打ち合うと、その水分が飛んでくる。
 
 
 
ある日、白いブルゾンで撮影に行き、帰ってから気づくと、ピンク色のシミが無数にできていた。
 
まぶたのカットなどの出血が、汗や水に混ざって飛んできたのだ。
 
これで、お気に入りのブルゾンは台無し。
 
 
 
短期間で失敗ばかりのボクシング取材だったが、間近で見たリング上のあの熱気と緊張感は今でも忘れられない。


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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