超大型の台風19号が伊豆半島に上陸したのとほぼ同時刻、ブエノスアイレスは激しい雷雨に見舞われた。
とにかく雨量がすごく風も出始め、窓の隙間から水が入ってくるほどだった。
台風が心配でNHKをつけ、豪雨の中で日本の豪雨映像を見るという珍しい体験をした。
 
 
大荒れなのはエクアドルも同じ。
もっともこちらは天候でなく国内状況。
燃料の大幅値上げを発端に先住民系のデモが激化。
暴徒化したデモ隊がキト市内各地で警察と衝突。
これまでに5名の死者と2000名の負傷者、600名の逮捕者を出した。
 
 
さらに驚くべきは、危機を感じた政府は首都のキトを放棄して商業都市のグアヤキルに撤退、つまり遷都した。
軍事クーデターの際に大統領が身を守るために逃亡することはあるが、警察と軍が政権下にあるにもかかわらず首都から逃げ出すというのは聞いたことがない。
 
 
エクアドルというのは、非常に政権が不安定な国だ。
不安定というか、信用できない。
直近の8人の大統領のうち、なんと5人もが国外に逃亡もしくは亡命しているのだ。
前職のコレアが憲法を改正するまで、大統領は任期4年の1期限りで連続しての再選は許されなかった。
選挙は全国民による直接選挙。
当選するためには莫大な資金が必要だ。
元大統領のブカランかノボアの選挙戦では、夫人が貧しい地区を訪れトラックの荷台から選挙運動を行った。
その運動というのは、荷台に山積みされた食料品や品物、さらには現金を文字通りバラまくこと。
それに人々が殺到し将棋倒しとなり、数名が死亡するということもあった。
このケースは死者が出たからニュースになったが、このような運動は普通に行われている。
 
 
テレビ番組を買い取り、1時間枠のキャンペーン番組を作って放映もする。
地上波のゴールデンタイムにもそういった番組が流れる。
しかもその内容の多くが、自分の宣伝でなく対立候補の批判。
ホルヘは何度かリアルタイムで観ているが、女性が涙ながらに「私は○○(対立候補)に犯されました」と語ったり、ガラの悪い男が「俺は昔〇〇(対立候補)と麻薬の運び屋をしていた」と告白するなど滅茶苦茶なもの。
こうした嘘っぱちの中傷合戦を大枚はたいて行っているのだ。
 
 
当選すると、選挙で使った金を回収にかかる。
任期が4年しかないのだから、経費を取り戻しさらに利益を上げるためエゲツない汚職をする。
それと同時に前職の違法行為を糾弾し、人気を高めて自分の不正から目をそらさせる。
前職を叩いて有罪にするのは韓国と同じ。
しかし韓国では敵対政党の政治的ライバルを潰すのに対し、エクアドルでは仲間や先輩にも牙をむく。
現職のモレーノ大統領は、前職コレアと同じ政党で、第1次コレア内閣の副大統領だった。
にもかかわらず、自らが大統領となってからはコレアを訴追し、ベルギー隠棲へと追い込んだ。
 
 
選挙といえば、アルゼンチンでは大統領選と各都市の首長選の真っ最中。
一昨日テレビで、ブエノスアイレス市長選挙立候補者による討論会が行われていた。
以前、NHKが選挙前に行った各党党首による討論会を観たが、そのときは安倍総理の発言時間が長く、他の党首から「不公平だ」との不満が出ていた。
それに対し司会者は、他の党首からの質問が安倍総理に集中するので、そうなってしまうのをご了承ください、と答えていたように記憶している。
 
 
ブエノスの討論会では司会者が、「○○候補から△△候補へ30秒で質問お願いします」、そして、「△△候補、1分30秒でお答えください」と仕切っていた。
候補の発言中はテレビ画面にも時間がカウントダウンされ、「0」になったら司会者が「終了です」と強制的に打ち切ってしまう。
この方法だと、質問や答弁をよどみなくこなし、時間内ギリギリで話をまとめる候補者がかっこよく切れ者に見える。
アルゼンチンでは、弁舌が立つ、ということが政治家の必須条件のようだ。
 
 
この市長選に、サンロレンソの会長レンメンスが有力政党から立候補している。
アルゼンチンの大人気司会者ティネリは大のサンロレンソファン。
大金持ちで、過去にはスペイン2部リーグのサッカークラブを所有し、アルゼンチンではバレーボールクラブを創立して南米王者にまで育てている。
彼をサンロレンソの会長にしようという声は多かったが、ティネリは政治的世界を嫌い否定的だった。
これを口説いたのがレンメンス。
自分が会長で前面に立ち、ティネリは副会長という体制で2012年の選挙に出馬。
ティネリ人気を最大限に利用して見事に当選を果たした。
 
 
そして14年にはコパ・リベルタドーレス初制覇を果たす。
アルゼンチンの5大クラブの中で、このタイトルを保有していなかったのはサンロレンソだけ。
それだけに、サポーターにとってこれは悲願中の悲願だった。
そしてサポーターのもう一つの悲願は、元の本拠地であるボエドへの復帰。
軍事政権下ボエドの地を追われ、現在は市の中心から離れたスラム街に面したスタジアムをホームとしている。
ここから返り咲くのがクラブ長年の夢だ。
そして今年7月、ついにボエドの土地がサンロレンソに戻ってきた。
新スタジアムの建設は資金面など問題が山積みながら、こうしてレンメンスは、短期間でクラブとサポーターの二大悲願を達成した。
 
 
現大統領のマクリはボカの会長に就任し、それまで不振だったクラブをトヨタカップの常連とし、スタジアムを大幅改修、ミュージアムを造り経営も好転させた。
そしてブエノスアイレス市長となり国家元首まで上り詰めた。
 
 
レンメンスも、マクリの後を追うことができるだろうか。
 


About The Author

ホルヘ三村

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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