アルゼンチンも日本食ブームで、寿司バーやデリバリー寿司、和食レストランが増えている。
 
もっともそのほとんどが「なんちゃって和食」で、日本人が納得できる店は、
 
一世が古くからやっている老舗と、新店舗ながら日本で修業した料理人がいるところだけ。
 
その数は、ブエノスアイレス市内で10店程度と思われる。
 
 
 
そんな老舗の一軒に、ホルヘが親しくしてもらっている店がある。
 
サッカー好きの店主と意気投合したことがきっかけとなり、家族並みの付き合いとなった。
 
店に行っても何も注文せず、適当に出される肴をつまみにマイボトルを吞み、
 
閉店後に家族や従業員と共に賄を食べるのがいつものスタイル。
 
 
 
お世話になるばかりでなく、ホルヘも仕入れの面では貢献もした。
 
アルゼンチンで入手できない、あるいは高価な食材や用品を日本で調達するのだ。
 
知り合いに飲食業が多いので、その筋から便利でお得な業務用のものを仕入れることができた。
 
 
 
サッカー好きの店主は、前回W杯のために大画面の新型テレビを購入したが、
 
それで熱戦を観ることもなく急逝した。
 
その後は奥さんが中心となりがんばっているものの、商売敵が増えて苦戦している。
 
アルゼンチン人には、正統派となんちゃって和食の区別はつかない。
 
むしろ、派手にアレンジされたものを好む傾向がある。
 
 
 
そこでホルヘは、売り上げを伸ばすために一策を講じた。それは、「炙り寿司」だ。
 
聞くところによると、アルゼンチンにはまだ炙り寿司がないらしい。
 
客の前でバーナーの火で炙ればパフォーマンスにもなり、きっと人気がでるはずだ。
 
 
 
日本滞在中にバーナーを探したが、これが数種類あり使用するガスボンベも違う。
 
件の店はスキヤキなどでカセットコンロを使うので、そのガスボンベ対応のものを選んだ。
 
ボンベ付のものを買ったが、持っていくのはバーナーの部分だけ。
 
ボンベは危険物なので輸送できない。
 
 
 
このバーナーは、ボタンを押すとカチッと火花が散ってガスに点火するシステム。
 
つまり、バーナー自体が発火装置なのだ。
 
となると、機内預けの荷物には入れられない。
 
したがって、手荷物の中に入れた。
 
しかし今回はシドニー、オークランド、サンティアゴと3回の乗り換えがあり、
 
その都度手荷物検査を受ける。
 
X線の機械を通すとバーナーは銃身のように見えるため、引っかかる可能性が高い。
 
 
 
その場合に備え、もはや不要であるパッケージも手荷物に入れた。
 
そこには料理を炙っている写真が載っているから、検査官に説明しやすい。
 
この作戦は功を奏した。シドニーでさっそく見咎められ、「これは何だ」と質問されたが、
 
「ディス イズ バーナー。ディス、ディス」といってパッケージを示して、簡単に納得してもらえた。
 
 
 
こうして調理用バーナーはアルゼンチンに渡り、
 
伝道師ホルヘによって炙り寿司が彼の地に広まろうとしているのだった。
 
 
140411


About The Author

ホルヘ三村

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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