第1回目のコロンビアガイドで説明したが、コロンビアの道には名前でなく番号が付けられている。
 
南北に走る道をカレーラ(略称はK)、東西に伸びるものをカジェ(同CL)と区別し、
 
カレーラは西方向に、カジェは北方向に番号が大きくなる。
 
旧市街のセントロは碁盤の目のようになっているので、この道路表記は非常に分かりやすい。
 
住所さえ知っていれば、地図がなくともたどり着ける。
 
 
 
しかし、セントロの外は少し厄介だ。
 
道には斜めに伸びているものや曲がりくねったもの、さらに枝分かれするものもある。
 
そのため、セントロではCL10の隣だったCL11が、数キロ先ではCL40の隣になることもある。
 
そしてその不都合を正すため、CL11が急にCL41という番号に変えられたりする。
 
しかし元々のCL41というのもあるので、41A、41Bと表記されるようになる。
 
 
 
ボゴタは南がセントロで北へ郊外が延びている。
 
一般的に、南は物騒、北は安全といわれている。
 
そんな北部のサンタ・バルバラという地区に、日本料理屋の「侍や」がある。
 
住所はK8A No.124-22。
 
これはカレーラ8Aとカジェ124が交わったところの、カレーラ8A沿いの22号という意味。
 
住宅街の中にある、小さな店だ。
 
 
 
元はセントロにあり、およそ14年前に移転した。
 
ホルヘが初めてこの店に行った日、翌日だか翌翌日に移転すると聞き、引っ越しを手伝ってからの付き合いになる。
 
開店から30数年という、コロンビアの日本料理屋の草分け的存在。
 
現在は日本人の職人が腕を振るう高級店がいくつかあるが、侍やは庶民的な店だ。
 
 
 
オーナーの高橋さんは日本人旅行者にも親切で、いろいろと相談に乗ってくれる。
 
というよりも、日本語で会話できるのが嬉しいらしく、しゃべりだすと止まらなくなる。
 
 
 
店内には、ホルヘがプレゼントした元コロンビア代表GKにしてボカでコパ・リベルタドーレスおよび
 
トヨタカップを制したオスカル・コルドバの写真が飾ってある。
 
先日コルドバが客として来店し、「なんで、こんな写真があるんだ」と喜んでいたそうだ。
 
 
 
高橋さんは数年の役所勤務を経て日本を飛び出し、ヒッピーとして世界を巡った。
 
それから40年近く、一度も日本に帰っていないという。
 
以前、現地在住の日本人常連客とホルヘがいたとき、「そろそろ里帰りしてみようかな」と言い出したことがあった。
 
常連客はそれに対し、「今更帰っても、浦島太郎になるだけだ。鉄道も変わっているし、
 
迷子になって故郷にたどり着けないぞ」とからかった。
 
すると高橋さんは、「なんとか東京駅まで行き、後は赤帽に荷物を預ければホームまで連れて行ってくれるよ」
 
と真面目な顔でいう。
 
赤帽とは、駅構内で荷物を運んでくれるポーターのこと。昔は、主要駅にたくさんいたものだ。
 
 
 
想像以上の浦島太郎ぶりに、「赤帽なんて、もういないよ」と突っ込むと、
 
「エッ、赤帽はセ・アカボー」と返してきた。
 
SE ACABÓとはスペイン語で「終わった」という意味。
 
この絶妙のダジャレに我々は大爆笑。
 
今でも高橋さんに会うと、このときのことを思い出す。
 
 
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侍やの高橋さんと


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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