チリとアルゼンチンは南部の国境線をめぐり領土問題を抱えていた。
 
20世紀初頭には、あわや開戦という緊迫した時期もあったという。
 
アルゼンチンはイタリアの造船所に軍艦を発注し軍備を増強。
 
しかし政治的に決着し、戦争の危機は避けられた。
 
そしてその軍艦のうち2隻は日本に売られ、最新型巡洋艦として日露戦争の日本海海戦に出撃し、
 
バルチック艦隊撃破に貢献した。
 
 
 
とまあ、チリとアルゼンチンの関係は日本にも影響を与えている。
 
昔から仲が良かったら、日本は新造艦を得られず、ロシアに負けていたかもしれない。
 
 
 
経済的には強い結びつきのある両国だが、過去のしがらみから敵対心は強い。
 
しかし今大会は、「南米はひとつ。隣国は兄弟。助け合おう」などが書かれた緑色のカードを配り、
 
ヘイト行為禁止のグリーンカードキャンペーンを行い、それが功を奏してか、
 
試合前はチリとアルゼンチンのサポーター同士が談笑するシーンが会場周辺で見られた。
 
 
 
もっともスタンドに入れば話は別。
 
アルゼンチンサポーター同士が集まってチャントを歌うと、圧倒的な数のチリサポーターのブーイングに潰される。
 
そして圧巻だったのはスタンドを埋め尽くすチリ国旗。
 
金持ちの企業家が、決勝のために4万本を寄付してボランティアが入口で配った。
 
総入場者は4万5千人ちょっとで、アルゼンチンサポーターは3千人ほどか。
 
したがって、アルゼンチン人以外はほとんどの入場者がチリ国旗を手にしたことになる。
 
 
 
決勝戦は延長、PK戦、表彰式と長引いたが、午後9時前にはスタジアムを出ることができた。
 
しかしこの日は、一番早いプレス送迎バスの発車が午後10時半だという。
 
待っているのもバカらしいので、会場周辺で騒いでいる歓喜のチリサポーターの様子でも見ながら、ブラブラ歩くことにした。
 
路線バスに乗れればそれで帰るし、だめなら地下鉄の駅まで行くことにした。
  
 
 
周囲は大通りだが、人々で占領されバスなど走っていない。
 
あちらこちらで、「チ!レ! チチチ レレレ ビバ! チレ!」とお決まりのコールを叫んでいる。
 
ちなみにチリは、CHILEと書いてそのままチレと読む。
 
誰かが「チ!レ!」と叫ぶと、周囲のものがそれを合図に「チチチ レレレ ビバ!チレ!」と続く。
 
 
 
もっともこれは短縮型で、本来は音頭取りが「セ アチェ イ」というと
 
みんなが「チ!」と叫び、「エレ エ」というと「レ!」と続き、そこから「チチチ…」になる。
 
C(セ)、H(アチェ)、I(イ)L(エレ)E(エ)というのが、スペイン語のアルファベット発音だからだ。
 
 
 
以前W杯予選などチリ代表の試合前には、民族衣装を着て大きな国旗を持った男性がピッチ内を駆け回り、
 
この音頭取りをやっていた。
 
初めてそれを見たとき、ホルヘはかなり感心したものだ。
 
しかし何度目かにチリを訪れたとき、その男性はいなかった。
 
知り合いのカメラマンに訊くと、
 
「あいつが来ると負けるっていうジンクスができたから、やめさせられた」とのことだった。
 
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About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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