前回、コパ・アメリカに出場している日本代表は、できるだけ早く敗退してもらいたいと書いた。
これは、フロックで好成績を残してしまうと、五輪のための強化に悪影響を与えるとの思いからだ。
実力以上の成績を上げて慢心するのは最悪のシナリオだ。
現在の力量に相当する結果で大会を終え、この貴重な参戦の中から多くのものを学び、できることなら将来への明るい可能性を示してもらいたいと思っていた。
 
 
チリ戦は、まさにその通りのゲームだった。
森保監督は、百戦錬磨の川島と岡崎をベンチに置いた。
五輪のためのチーム作り、若手の強化というプランに徹している。
さらに、格上相手にもかかわらず一切の消極性を捨てた。
弱いチームが強いチームに一矢報いる策は、カウンターと相場が決まっている。
しかし、それを続けていては強くなれない。
日本サッカーの暗黒時代、代表は常にこの戦術で韓国に挑んだが、両者の実力差は開くばかりだった。
以前は日本と同様だったアメリカは、ミルチノビッチ監督が就任すると、強豪相手のコパ・アメリカでも守備重視の戦術を取らず、大会では不成績を繰り返しながら、短期間で大幅にレベルアップ。
それまで相手にならなかったメキシコに、普通に勝てるようになった。
 
 
この試合、あるいはこの大会で結果を残さねばというならカウンター戦術は有効ながら、目標が先にあるのなら消極的なサッカーをすべきではない。
そして、真の実力をつけたうえで取り入れたカウンター戦術は、強力な武器となる。
 
 
チリ戦はお互いに非常にダイナミックなプレーを展開し、南米では「パルティダッソ」(好ゲーム)と高い評価を得ている。
0-4というスコアにもかかわらず好ゲームとされるのは、内容が充実していたからに他ならない。
若き日本は確かな可能性を示したといえる。
そして、内容は接戦だったにもかかわらずこの結果となったことは、今後に向けての素晴らしい教材となったはずだ。
 
 
そして迎えたウルグアイ戦。
このチームはフィジカルの強さを前面に出し、ロングボールも多用してくる。
悪く言えば雑なサッカーで、日本にとってはやりにくい相手だと思っていた。
ところが、終わってみればまさかの2-2。
南米では、チリ戦を上回るパルティダッソと評価され、今回は日本代表への賛辞も多かった。
 
 
しかし、初戦の大敗が影響したか、森保監督は川島と岡崎を先発で起用。
若手強化が主眼なら、川島はともかく、岡崎は交代要員でよかったのではないか。
 
 
三好が見事に先制したあとのウルグアイのPK。
あのファールは、普通なら主審と副審で問題なくPKを取れるケース。
しかしVARがある試合だと、どうしてもそれに頼りがちになる。
もし、先走ってPKを宣告し、その後VAR室から無線で、「今のは当たってないぞ。ビデオで確認してみろ」といわれ、実際に反則でなければ主審の立つ瀬がない。
あのケースでも、主審はPKだと思っていたはず。
相手のクリアボールがピッチ中央へ行った時点で笛を吹いてプレーを止めてVAR室からの連絡を待った。
もし、PKではないと確信を持っていたなら、たとえカバーニが倒れていてもシミュレーションの可能性が高いので、プレーが切れるまでは続けさせたはずだ。
 
 
後半立ち上がり、中島が倒れた時は日本のPKかと思われた。
テレビ解説者も、直後のリプレーを見て、「これは明らかにPKだ」といい、PKではないとの判定に対し、「VAR室の重大なミスだ」と憤慨していた。
たしかに相手選手の脚が引っかかって倒れているので、PKでおかしくない気がする。
しかしVAR室は、主審にビデオで確認させるまでもなくファールではないと判断した。
これはつまり、DF二人の間の狭い空間を抜けようとしたことに無理があるということだ。
通れないところを通ろうとして相手にぶつかったと解釈されたのだろう。
 
 
ウルグアイが猛攻に転じたのは三好の2点目が決まってから。
もしこれがPKとなって日本が早めに1点リードしていればウルグアイはここから全開になったわけなので、三好の2点目は生まれず、逆に3失点目を喫していたかもしれない。
 

 
 
今大会はVAR判定が得点に大きく影響しているが、最も被害(?)を被っているのは地元ブラジル。
ベネズエラとの第2戦では2ゴールがともに取り消されて0-0の引き分けになってしまった。
ブラジルが1950年のW杯決勝においてマラカナンスタジアムでウルグアイに敗れたことをマラカナンの悲劇と呼ぶが、ポルトガル語ではMaracanaço(マラカナッソ)で、今回の不幸はそれをもじってVARacanaço(バラカナッソ)といわれている。
 
 
ブラジルと同じグループ、ペルーのファルファンが、ボリビアとの第2戦で大会記録となるゴールを決めた。
それは、コパ・アメリカにおける15年ぶりの得点。
04年に19歳で地元開催の大会に出場して得点して以来、4大会をまたぎ(11年、16年は不出場)久々に歓喜を味わい、マエストリ(ペルー)の記録13年を更新した。


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ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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