今やサッカーは世界のいたるところで行われているが、それだけに我々の常識とはかけ離れたことも起きている。
世界で最も国土の広いロシアでは、SKAハバロフスクというクラブがプレミアリーグ昇格を決めた。
これはおめでたいことなのだが、このクラブの立地条件がすごい。
ロシアはモスクワやサンクトペテルブルクなど西側が栄えており、プレミアリーグ所属のクラブもそちらに集中している。
ところがハバロフスクは極東地域で、日本まで約500キロメートル、そしてモスクワからは約8300キロメートルの地点にある。
8300キロメートルというのは、東京/ロサンゼルス間(8280キロメートル)に匹敵する。
そしてハバロフスクとモスクワの時差は7時間だという。
 
 
成田/ロサンゼルス間のフライトは、偏西風の影響で東に向かう場合と西へ進む場合で若干の差があり、およそ10時間から12時間かかる。
ハバロフスクから最も近いクラブはFCウラルだが、そこまでは約6600キロメートル。
東京からハワイまで(約6200キロメートル)とさして変わらない。
ようするに、試合のたびに海外旅行並みの移動が科せられるのだ。
なんで、昇格なんかしてしまったのだろう。
 
 
他のクラブはハバロフスクでのアウェイ戦のときだけで済むが、SKAハバロフスクはすべてのアウェイ戦でこれを行わなければならない。
おまけに時差も大きい。
選手の健康に問題はないのだろうか。
ハバロフスクは冬になると、最低気温ではなく平均気温がマイナス20度だというので、その期間はモスクワに引っ越してアウェイ戦を続け、夏場に連続してホームで戦うようにしてはいかがなものか。
夏の高校野球の間、阪神タイガースは甲子園が使用できず、ビジターゲームが続き“死のロード”と呼ばれるが、8300キロメートルを移動するほうが、よほど死のロードに近い。
 
 
ところ変わって小さな小さなジブラルダルでの話。
ジブラルダルはスペイン南部の半島にあるイギリスの海外領土。
面積は6.5平方キロメートルで人口は3万人ちょっと。
こんなところにもプロリーグがあり、1部には10チームが所属しているという。
FIFAにも加盟している。
小国として有名なモナコやサンマリノにもプロチームはあるが、フランスリーグとイタリアリーグに参戦しているだけで国内のプロリーグはない。
 
 
ジブラルダルは狭いので、スタジアムは一つしかない。
ホームもアウェイもなく、ここですべての試合が行われる。
人工芝なので、連戦してもピッチは大丈夫。
選手の多くは外国人で、スペインに住み練習もそこで行うそうだ。
地元密着とは真逆のクラブ運営。
 
 
そもそも人口3万万強の場所にプロが10チームもあるのが不思議だ。
どう考えても採算が取れない。
しかしクラブは投資家によって支えられており、優秀な選手も加わってリーグ全体のレベルが上がっているという。
投資家の狙いが何なのかわからないが、このようなリーグも広い世界には存在している。


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ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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