前回は、ある選手の不祥事をきっかけに思い出したオンセカルダスのことを書いた。
今回は、クラブW杯のプレビュー取材でコスタリカのサプリサを訪ねたときのことをテーマにする。
欧州王者と南米王者による世界一決定戦だったトヨタカップが2004年に終わり、05年からは各大陸の代表が参加するクラブW杯に格上げされ、サプリサはCONCACAF(北中米カリブ)王者として同大会に出場することとなった。
W杯に4回出場しているものの、コスタリカのサッカーはCONCACAFでは3,4番手といったところ。
ホルヘも知識はほとんどなかった。
たしか1991年に、コスタリカのサンホセで乗り継ぐ旅程だったとき、航空会社の問題により乗り継ぎが出来ず、ホテルで1泊したことがある。
しかしそのときは外出もしなかったので、実質的なコスタリカ訪問は、このサプリサ取材が初めてのことだった。
ネットで予約したベストウェスタンに着くと、「この辺りは危険なので、暗くなったら外を歩かないでください」といわれた。
ベストウェスタンといえば世界最大級のホテルチェーンなのに、なんでそんな場所に建てたのか。
明るいうちに周辺を散策すると、ホテルから100メートルほどのところになんとも味わいのあるバーを発見。
後で呑みに行きたいと思うものの、まさかこの距離でタクシーを利用するわけにはいかない。
酔っぱらってのご帰還では、わずか100メートルでも狙われるかもしれない。
さあ、どうしよう。
結局、意を決し徒歩でバーへ突撃。
中は薄暗く、地元の呑兵衛が集まる大衆的な店だった。
ホルヘにとっては理想的。
こうしたところで土地の人と一緒に呑んで仲良くなるのは、旅の醍醐味といえる。
場所によっては、常連客がよそ者に冷たいケースや店員が不愛想だったりする。
しかしホルヘは、ここと決めたら、翌日も翌々日も通う。
そうすれば、だいたい3日目には仲間に入れてもらえる。
コスタリカ人の気質なのか、このバーではみんながすぐに受け入れてくれた。
ホルヘが歌えば、みんなが踊り出すという一体感まで生まれた。
「危ないから」とホテルの前まで送ってくれるし、三晩目には別の店へはしごしに行き、みんなでホルヘにおごってくれた。
何と気持ちのいい人々であったことか。
夜が更けるとバーには、クーラーボックスを担いだ売り子がやってくる。
何を売っているかというと、ウミガメの卵のゆで卵。
コスタリカは自然豊かな国でウミガメの産卵地でもあるが、卵を取るのは違法ではないのか。
その点を訊くと、卵を食べるのは昔からの習慣なので、保護地域以外で取るのは問題ないとのこと。
日本人がクジラを捕るようなものかと納得したが、実のところ、本当に合法なのかは疑わしい。
ウミガメの卵は過熱しても固まらず、ドロッとしたまま。
どうやら精力剤と信じられているようで、夜更けの酒場で売っているのは、これから出陣しようという男を狙ってのことのようだ。
サプリサはアラフエレンセと並ぶコスタリカの2大クラブ。
どこの国でもビッグクラブともなればそれなりに格式が高い感じになるのだが、ここはとてもフランクだった。
プレスの担当者からして若い女性なのだ。
こちらの要望は何でもOKという感じ。
メドフォード監督と主力選手も好意的に接してくれた。
サプリサのアウェイ戦を取材するためホームクラブに申請したが、そこのプレス担当も女性だった。
この職はかなり重要なもので、普通はそれなりのキャリアを積んだ者が担当する。
しかしホルヘが察するに、コスタリカのプレス担当はかなり暇なようだ。
ようするに取材者が少ないのだ。
サプリサの試合でもカメラマンは10人いるかいないかだったし、練習の取材には記者が1名しかいなかった。
人気クラブですらこうなので、中堅クラブにはほとんど来ないだろう。
コスタリカは中南米の3C(コスタリカ、コロンビア、チリ)と呼ばれる美人の産地。
特にスキルが必要な仕事じゃないので、マスコミとの窓口に可愛い娘を置いておこうという考えなのかもしれない。
ホルヘにとって、これはなかなか嬉しいことであった。