年末に帰国した際、成田空港の税関で引っかかった。
「携帯品・別送品申告書」の「他人から預かったものはあるか」という質問の「はい」にチェックしたら、スーツケースを開けて調べられることになった。
 
 
海外旅行で知り合った現地の人から、「○○ドルのお礼を払うから、これを日本に持って帰って友達に郵送してほしい」と頼まれ承諾すると、中身が麻薬で摘発されるというケースがよくある。
そのため税関は、「預かりもの」に敏感なのだ。
しかしホルヘはここ5年ほど、アルゼンチンの同じアミーゴから預かりものを毎回頼まれている。
そしていつも正直に申告しているが、軽い問答程度で済んでおり、カバンを開けられたことはない。
 
 
今回はカバンを開けて現物を見た後、さらにX線検査をするといって、別の係員を呼んで検査室へ運ばせた。
ホルヘは何十回と成田空港と羽田空港の税関を通っているが、カバンを開けられたのはこれまでに2~3回しかない。
しかも入念なチェックはせず、簡単な目視だけで、「ご協力ありがとうございました」といわれてパスしてきた。
 
 
X線検査を待っている間、担当の係員にその話をすると、「いや、申し訳ありません」とやたら低姿勢。
「お客さんが多いときはお待たせしないようにしているんですが、今はガラガラなので」と変な言い訳をする。
たしかに到着したのは1便だけなので人は少なく、ホルヘの後ろには誰も並んでいない。
 
 
そもそも税関は、不法なものを日本に入れないという重要な使命を与えられた役所だ。
そのための職務を遂行しているのだから、もっと堂々とすればいいと思う。
その点、外国の税関はしっかりしている。
 
 
ロスアンゼルスで一度、徹底的なチェックをされたことがある。
中南米からの入国者は不法品を持ち込むことが多く、マークが厳しくなる。
しかしそのときは、日本からロスに着いたのだ。
パスポートやエアチケットで、税関職員もそのことはわかっている。
それでもスーツケースを開けられ、すべてのものを調べられた。
 
 
女性係員と、「これはなんだ」「~です」の繰り返し。
そして、恐れていたポーチへと手が伸びた。
中には髭剃りや歯磨きなどの洗面用具と、常備薬などが入っている。
係員は太田胃散のふたを開け、「これはなんだ」という。
胃を押さえながら、「フォー ストマック」と答える。
龍角散の匂いをかぎ、「これはなんだ」と訊く。「フェン アイ ハブ ゴホッ ゴホッ、 アイ テイク ディス」。
薬の説明は大変だ。
 
 
そしてついに、訊かれたくないものの番がきた。
「これはなんだ」「コ コ コンドーム」。相手が女性だったので、非常に恥ずかしかった。
 
 
この徹底チェックを受けてやっと解放されるかと思いきや、今度は警官が2名来て、「別室で調べる」という。
連れていかれたのは6畳ほどの部屋。
ここでボディチェックをするという。
脚を開き、両手を上に挙げて壁に着けるようにいわれる。
ご丁寧に壁に黒い印が描かれてあり、目線はそこだという。
 
 
その姿勢になると、警官がいきなり脚を絡ませてきた。
容疑者(=ホルヘ)が暴れられないようにするためだ。
この本格的な警官の動作に、「これは、ちょっとヤバいのでは」と心配になった。
 
 
しかしその後はフレンドリーで、もう一人の警官がスペイン語をできたため、ボディチェックを受けながら軽口を叩くことができた。
それで気持ちも楽になり、話しながらスペイン語警官に顔を向けると、彼は「顔を動かすな」と突然怒鳴り、腰の拳銃を抜きかけた。
アメリカンポリスは本当に怖い。
 
 
南米からヒューストンの空港に着いたとき、「Do you Have food?」と訊かれた。単に「No」と答えればいいのに、なぜか「I don’t have」と答えようとした。
ところがしばらくスペイン語生活をしていたので、この簡単な一言「I don’t have」が出てこない。
その代わりに出てきたのは、同じ意味のスペイン語「No tengo」。
日本のパスポートを提示しながらこう答えたので、「怪しい奴め」ということで、また別室へ連れていかれた。
 
 
日本テレビの「世界まる見えテレビ特捜部」で、オーストラリアの税関を舞台とした番組「ボーダーセキュリティ」がたまに取り上げられる。
不審者や麻薬の運び屋と税関職員の対決をテーマにしているのだが、ホルヘもここで不審者となった。
 
 
アルゼンチンからシドニー経由で帰国の際、ここで2泊することにした。
税関でカバンを開けられ、「目的は」と訊かれる。
「サイトシーン」という定番の答えを返すと、「たった2泊で観光だと?短すぎる」と言い出す。
 
 
ちなみに、係員は外国人を相手にするプロなので、ホルヘでも7割くらいは理解できる英語を話してくれた。
ところが、「I don’t have」がいえなかったように口が英語を忘れており、話すほうは難儀をした。
 
 
「観光って、何をするんだ」というから、「ビーチへ行く」と返答。
12月だったので、砂浜でも散歩しようと本当に思っていた。
すると、「どこのビーチへ行く」と突っ込んでくる。ネットで調べた事前情報では、シドニーには手軽に行けるビーチがたくさんあるとのことなので、特にどこへ行こうとは決めてなかった。
そこで答えに詰まると、「ビーチに行くのに、タオルがないじゃないか」という。
泳ぎは好きじゃないし、はじめから海に入るつもりはない。
しかし、その説明が英語でできない。
 
 
たとえ海水浴目的の観光客だとしても、わざわざタオルまで家から持っていくだろうか。
現地で買ったり、ホテルのものを拝借するケースだってあるはずだ。
タオル云々はいいがかりみたいなもの。
ようするに、ハナから完全に疑われているのだ。
  
 
白いガーゼみたいなものでスーツケースの中をこすり、それを検査するという。
違法なものは何も持っていないので、「どーぞ、どーぞ」と快諾。
ところが、「エフェドリンの陽性反応が出た」という。
そして、「どこに隠している」と詰め寄る。
 
 
「オッタマゲー」でパニックになった。
ホルヘは非常に緊張しいなので、こうなると手などが震えてくる。
それを見た係員は、「なんで震えているんだ」と勝ち誇ったように追い打ちをかける。
「あと一歩で落ちる」と思っていたことだろう。
 
 
するとそこにスペイン語ができる職員がきて、通訳をしてくれることになった。
これで気持ちがグッと楽になる。
冷静になって考えると、禁止薬物の陽性反応が出たのなら、別室へ連れていくなり、スーツケースが二重底になっていないかを調べるはず。
証拠があるのなら、カバンを壊して調べるのも合法だろう。
それをしないということは、「陽性反応」というのはハッタリの可能性が高い。
ハッタリかどうかの真相は不明ながら、通訳というセコンドに助けられ、KO寸前だったホルヘはその後立ち直り、ボディチェックを受けて無罪放免。
しかし、取り調べは2時間近くの長丁場だった。
 
 
アルゼンチンをはじめ、南米の税関でも何度となく引っかかってきた。
それほど、ホルヘの見た目は疑わしいのだ。
それなのに、日本の税関ではこれまでほぼノープロブレム。
これは、おかしい。
 
 
南米に移住した複数の日系1世の方に聞いたのだが、日本の税関で、「移住者です」というと、「ご苦労様です」とねぎらわれてフリーパスだという。
こんなに甘くていいのだろうか。
日本の平和を守るため、税関にはもっと厳しいチェックをお願いしたい。


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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