スペインのバルセロナでキャンプ中だったアルゼンチン代表は、ロシア入り直前に行う予定だったエルサレムでのイスラエル戦を突如中止した。
試合日が10日の土曜日で中止の発表が7日の水曜日なので、ドタキャンといっていいだろう。
 
 
中止の理由は、イスラエルとパレスチナの緊迫した状況。
アメリカが大使館をテルアビブからエルサレムに移したことで、抗議するパレスチナ人にイスラエル軍が発砲し多くの死傷者がでたのは5月14日だった。
それ以来両者の緊張は非常に高まっている。
 
 
イスラエルはエルサレムを首都と主張しているが、宗教的、民族的に複雑な歴史を踏まえ、国際社会はテルアビブを実質的な首都として扱ってきた。
しかしトランプ大統領がこのタブーを破り、イスラエル人は大喜び。
お祭りムードの中、かねてから組まれてあったアルゼンチンとの試合をお祝いの一環に利用しようとした。
これにパレスチナ人は猛反発。
普通のおばあさんまでもが、赤ペンキをぶちまけたアルゼンチン代表の血染めのユニホームを掲げて抗議活動を行った。
アルゼンチン協会は明言しないものの、選手に危害を加えるといった脅迫が届いていたらしい。
 
 
こうなると、選手が所属しているヨーロッパのクラブも黙ってはいない。
当然、イスラエルに行かないようアルゼンチン協会に圧力をかける。
同様のことは、2001年のコパ・アメリカのコロンビア大会でも起こった。
反政府ゲリラが大会の妨害を企てており、スター選手が誘拐される危険があると報じられ、ヨーロッパのクラブは所有選手がコロンビアに行くことを認めず、もし連れて行って危害を受けたらアルゼンチン協会に損害賠償請求をすると通告。
結局、アルゼンチンは大会を棄権した。
 
 
イスラエルとのテストマッチのギャラは200万ドルだという。
そしてアルゼンチンは、イスラエル本国を除いてアメリカの次にユダヤ人が多い国だといわれている。
となればこの試合が組まれるのは必然とも思われるのだが、早くから疑問視する声は多かった。
「よりによって、ロシア入りの直前に行わなくても」というのがそれだ。
せっかくバルセロナのキャンプで調整したのに、酷暑のイスラエルで戦うことでコンディションが崩れてしまいかねない。
 
 
それでもタピア会長はイスラエル行きを決めたが、その後のアメリカ大使館移転に端を発する状況への判断が甘かった。
「何を考えているのか。もっと早く中止すべきだった」とのタピア批判が巻き起こっている。
 
 
このようなドタバタ劇もあったものの、W杯開幕を前にアルゼンチンには幸先のいい出来事もあった。
アムステルで行われたPlaystation=FIFA18の世界選手権でアルゼンチン代表が優勝。
グループリーグを7戦無敗で勝ち上がり、ベスト16ではオランダに5-2、ベスト8はベルギーに3-2、準決勝も3-2でデンマークを下し、決勝では宿敵ドイツを6-3で破ったという。
 
 
今回のW杯ではビデオ判定が導入されることでミスジャッジが減ることが期待されているが、それは審判が公正に裁くという前提でのこと。
審判が意図的に片方のチームを有利にすれば、ハイテクシステムもその機能を発揮できない。
 
 
5月半ばにサウジアラビアで、主審が賄賂を要求する事件が発覚した。
国王杯の決勝戦の主審を担当するアルミルダシが、試合に挑むアルイテハドの幹部に、「金をくれたら勝たしてやる」と持ち掛けた。
幹部はこれを拒否して協会に通告。
そして協会はこの審判を永久追放処分とした。
 
 
そして本日は、ケニアのランジェ審判の収賄が報じられた。
これはアフリカ版BBC放送のおとり取材に引っかかったものだが、アフリカネーションズ杯中に話を持ち掛けられ、アフリカサッカー連盟のオフィシャルジャケットを着たまま600ドルを受け取り、「プレゼントありがとう」といったシーンを撮影された。
 
 
サウジアラビア国王杯の決勝の主審やアフリカネーションズ杯を裁く審判は、その業界ではトップクラスに位置している。
この二人はなんと、ロシアW杯の審判団に名を連ねていた。
ケニアのランジェはブラジル大会でも予備審判を務め、今回は10名のアフリカ勢副審の中に選ばれていたのだ。
もちろん、事件が露見したことでロシア行きはなくなった。
 
 
これほどの経歴がある審判でも、わずか600ドルで転んでしまう。
審判を買収すれば試合をコントロールできる。
サッカー賭博を生業とするダーティーな輩は、当然のようにここを狙ってくる。
世界が注目するビッグイベントは、賭博業者にとって最高の稼ぎ時。
奮発した1万ドルを発展途上国の審判にチラつかせれば、かなりの効果があるはずだ。
ということで、今回のW杯では、ミスジャッジより疑惑のジャッジが増えるような気がする。


About The Author

ホルヘ三村

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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