サンロレンソに新加入したコロンビア人選手が注目を集めている。
といっても、そのプレーぶりではない。
アトレティコ・ナシオナルのユースからテスト入団したので、即戦力というわけではないのだ。
 
 
注目されているのは彼の名前。
苗字はゴンザレスといたって普通なのだが、ファーストネームがとんでもなく変わっている。
EFMAMJJASONDというのだ。
Jが重なるなどスペイン語系の名前には見たことがない。
実はこれ、1月=Enero, 2月=Febrero, 3月=Marzo, 4月=Abrir, 5月=Mayo, 6月=Junio, 7月=Julio, 8月=Agosto, 9月=Septiembre, 10月=Octubre, 11月=Noviembre, 12月=Diciembreの頭文字を順に並べたもの。
 
 
なんでも両親が、暦の月のマニアだという。
一般の人にとって月は、単に時を表すものに過ぎない。
特に1月、2月・・・としている日本人にはまるで関心が湧かないことだが、それぞれの月の名称には由来がある。
7月のJulioはジュリアス・シーザーのジュリアスだ。
Septiembreは「7番目」の意味なので本来は7月だったが、シーザーたちが割り込んだために9月になったなど、調べれば興味深いことがあるらしい。
 
 
EFMAMJJASONDはおそらく、エフマンハソンッと発音するのだろう。
若干長いのでJASOND「ハソンッ」と呼ばれるのを本人は好んでいるそうだが、周囲がつけた渾名は、当然のごとくCALNDARIO(カレンダー)だ。
 
 
ブエノスアイレス市内の目抜き通りヌエベ・デ・フリオ。
ヌエベは数字の9で、フリオは7月。
つまり独立記念日である7月9日のことだ。
この通りには多くの路線バスが走り、ホルヘの家から2ブロックと近い。
知らない場所から帰宅するときは、この通りを走るバスを探せばいいので便利だ。
 

 
 
しかし、「このバスはヌエベ・デ・フリオを通りますか」と訊いて、「エ?」と聞き返されることが多い。
これは、ホルヘの言い方が悪いからだ。
スペイン語の原則では、単語の終わりから2番目の音節にアクセントがある。
したがってNUEVEは真ん中のEにアクセントがある。
ホルヘもそれは分かっているし、ヌエベだけなら正しいアクセントとイントネーションでいえるのだが、意識せずにヌエベ・デ・フリオというと、ヌエベのエが弱まり平坦なイントネーションになってしまう。
 
 
スペイン語はアクセントが重要で、発音が正しくてもイントネーション次第で理解されなかったり誤解されることがある。
たとえば、「終わる」という意味のTERMINAR(原型)は、「私が終わる」ときはTERMINOでIにアクセントがある。
「彼が終わった」と三人称の過去形ではTERMINÓとOにアクセント記号が付いてそこを強調する。
そして名詞の「終わり」はTÉRMINOとEにアクセントがくる。
無理やりカタカナで書けば、テルミーノ、テルミノー、テールミノといった感じになる。
 
 
それがわかっていても、言葉が連結するとイントネーションがおかしくなることがある。
どうやらこれは、日本語の習慣によるものだ。
地域や方言による違いはあるだろうが、標準語では言葉が連結するとイントネーションが変わることが多い。
「赤とんぼ」のアカのイントネーションは、「赤」でなく「垢」のそれとなる。
童謡の「夕焼け小焼けの赤とんぼ~」は正しい「赤」のイントネーションだが、普通は「垢とんぼ」になる。
「天ぷらうどん」の場合のうどんも、単に「うどん」という場合と天ぷらが付く場合で違う。
正しいうどんのイントネーションで天ぷらと続けていうと、「天ぷら、うどん」と料理が二品あるように感じる。
元の言葉のアクセントを弱めて平たんにすることで、連結した二語が一つの言葉に生まれ変わる。
 
 
言葉が重なるとイントネーションが変わることは自然に身についており、それによりヌエベ・デ・フリオを何度も聞き返されてきた。
このイントネーションの変化は正しい日本語、あるいは日本語の文化だと思っていたが、どうも最近様子がおかしい。
テレビやラジオのアナウンサーがやたらと耳障りなイントネーションで話しているのだ。
 
 
「国内大会」が平坦でなく、「国内、大会」とそれぞれのイントネーションで語られている。
高校サッカーの時は、「日本航空」で驚いた。
これもそれぞれの言葉を忠実に、「日本、航空」といっていた。
たしかに、そのあとに「高校」が入って「日本航空高校」になれば、そのイントネーションで問題ない。
しかし「日本航空」だけなら、普通はJALの日本航空と同じようにいうのではないか。
 
 
どうやら、放送界でイントネーション変化キャンペーンが行われているようだ。
ひょっとすると、本家であるJALも「日本、航空」と呼ばれているのか。
すでに浸透している固有名詞まで変えてしまうのだろうか。
しかしNHKでは、国会中継を「国会、中継」とせず、これまでのイントネーションで伝えていた。
どこが音頭を取って、どのようなルールで行っているのか、さっぱりわからない。


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ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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