3月8日は世界女性デーということで、サッカー界でもそれに関連した出来事がいくつかあった。
日本でも報じられたが、アメリカの女子代表が待遇改善を求めて協会を提訴した。
代表戦の出場給やボーナスが男子選手より低いのは性差別だとし、同等の待遇を求めたのだ。
 
 
以前ここに書いたが、ニュージーランド協会は出場給の男女同額を決定し、「世界初の試みだ」と胸を張って発表した。
世界的に女子の試合は男子ほど観客が集まらず、クラブや協会の利益にならない。
それどころか選手、スタッフの人件費、移動費、試合開催費が収入を上回って赤字となるのが普通。
協会も代表の強化費、選手の出場給、女子リーグへの助成金などを支出せねばならず、いうなれば金食い虫的存在だ。
 
 
しかしアメリカは女子の実績が男子をはるかに凌駕しているし、男子リーグ低迷期は女子リーグのほうが集客力は高かった。
こうした状況を踏まえれば、彼女たちの要求はもっともなものだと思う。
 
 
ホルヘが思うに、男女平等という観点に立たずとも、女子サッカーの環境と待遇は可能な限り改善すべきだ。
トップ選手が経済的に恵まれれば、それを目指す少女が増える。
育成環境が整えば女子のサッカー人口が増え、優れたトップ選手も多くなる。
そして彼女たちを目指して子供たちがサッカーを始める、という好循環が生まれる。
 
 
日本でも夫婦共働きが一般的となったが、幼児に接する機会は母親のほうが父親より圧倒的に多い。
出産後数年は仕事を休んで育児に専念するケースもある。
その母親がサッカー好きで自らも選手経験があったらどうであろうか。
日々の遊びの中で我が子にサッカーを伝えることができる。
お母さんのリフティングを見て、子供は自然と真似するだろう。
サッカーができる母親が増えれば、それはその国のサッカー強化に確実につながるのだ。
 
 
ウルグアイでは、1部リーグのダヌビオが特別なユニホームを着用。
背番号の下部に性差別や女性への暴力問題への喚起を促すメッセージをプリントした。
内容は国連がリリースしたもので、「性暴力の訴えは3時間に12件ある」、「10人のうち7人が性暴力に苦しんだ」、「重役10人のうち女性は2名だけ」、「女性は月に6日以上無給で働いている」など25種類。
これらが1番から25番までのユニホームに記されている。
ダヌビオは3月8日から3月一杯これを着用して女性の地位向上に貢献しようとしている。
 


 
 
ユニホームというものは、本来すべてが同じでなくてはならない。
したがって異なったメッセージが書かれているのは許されないのだが、協会もこれに賛同して認めた。
また政治的メッセージはFIFAが禁じているものの、これは国連のリリースということもあり問題なし。
しかし、たとえば「女性解放党」みたいな政党が自らのキャンペーンとして企画したのなら、協会はストップをかけただろう。
 
 
アルゼンチンでは観客がスタンドでプロポーズをして成功。
こんなことは珍しくないのだが、今回は女性デーということで女性からのプロポーズだった。
ニューウェルス対タジェレスのキックオフ前、恋人のルイスに近づいたメチはおもむろに背を向けた。
そしてTシャツの背中にはプロポーズの言葉が。
ルイスがこれを受け入れてめでたしめでたしという動画がSNSで話題となった。
 
 
女性デーとは関係ないが、少し前にスタンドでの珍しいプロポーズがあった。
チリリーグで、得点を決めた選手がスタンドへ飛び込み恋人の元へ。
そこで指輪を取り出しプロポーズというサプライズに挑んだ。
結果は見事に成功だったが、それだけでは終わらなかった。
 
 
そもそも、指輪などを隠し持つのはルール違反だ。
彼はスタンドへ入ったことで警告処分を受けたが、指輪の件も警告対象なので、一度にイエロー2枚で退場処分となってもおかしくない。
そしてこれが災難の元。
プレー復帰後に激しいタックルを足に受け、全治4か月の骨折を負ってしまった。
まさに天国から地獄。
退場になっていればよかったのに。
 
 
彼はベネズエラ人で、3回前のコラムに書いた母国からの逃亡組の1人かもしれない。
ベネズエラの情勢は日々悪化しており、発電所が閉鎖して先の見えない停電地獄。
ホルヘが2007年のコパ・アメリカで訪れたときは、原油国だけに電気は使い放題という感じだった。
国民に節電の意識はなく、民泊した家庭ではエアコンが夜中もかけっ放しで、半袖では寒くて眠れなかった。
 
 
ところが今は電気がない。
サッカーどころではなく、リーグの試合も次々と無期限の延期が決定。
コパ・リベルタドーレスに出場しているデポルティーボ・ララは13日にブラジルでクルゼイロと戦う予定だった。
しかし、なんとチームが出国できず延期となった。
マドゥーロ政権は、反体制派を支持する国外からの支援物資を拒否するためブラジルとの国境を閉鎖。
停電に加えこうした状況も重なり身動きが取れない。
とりあえず27日に延期となったが、それもどうなるかわからない。
 


About The Author

ラテンのフットボールを愛し、現在はgol.アルゼンチン支局長として首都ブエノスアイレスに拠点を置き、コパリベルタドーレス、コパアメリカ、ワールドカップ予選や各国のローカルリーグを取材し世界のメディアに情報を発信する国際派フォトジャーナリスト。 取材先の南米各国では、現地のセニョリータとの密接な交流を企でては失敗を重ねているが、酒を中心としたナイトライフには造詣が深い。 ヘディングはダメ。左足で蹴れないという二重苦プレーヤーながら、美味い酒を呑むためにボールを追い回している。 女性とアルコールとフットボールの日々を送る、尊敬すべき人生の達観者。

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